■ B
「臣」
「うん?」
「ごめんね、わたしのせいで…」
「全くだ、この野郎」
わざとらしくわたしの頭をポカンと殴る臣は全然力が入ってなくて、くすぐったいくらい。
「守ってくれてありがとう」
「ルールだかんな」
「そうだけど…怪我、痛い?」
包帯にそっと触れると、ピクンっと臣の身体が動いた。
わたしから目を逸らしてそっぽを向いたまま「痛くねぇよ」って答えるその顔はほんのり赤い。
「ごめんね、本当に」
「…無事でよかった」
スッて臣の手がわたしの髪を撫でた。
その瞬間、安心したのか何なのか、わたしは喉の奥が痛くて鼻がツーンとする。
ジワって涙が溢れてしまって…
「ユカリ?」
沙和の声が聞こえたと思ったら、臣の腕が伸びてきて、わたしの頭を抱えるみたいに抱きしめられる…―――
あんな非現実的なことを、当たり前みたいに過ごしているのかと思うととてもじゃないけど住む世界が違うと思った。
当たり前みたいにわたしを隠して、当たり前みたいに、一人で喧嘩しに行った臣。
当たり前みたいにわたしを助けに来てくれた直人くん…。
そんな当たり前は、わたしには似合わない。
今更ながら身体が震えて涙が止まらなくて、そんなわたしを必死に隠してくれる臣の優しさを肌で感じていた。