■ A




ハッとして顔を上げると、ちょっと険しい顔の臣がわたしを見ていて…




「お前、もっと腹に巻きついとけ」




そう言われて、臣の手がわたしの腕を掴んで、自分のお腹にグッと押さえつけた。





「なんかあったの?」


「分かんねぇけど、前揉めてるっぽい。スピード上げて通り過ぎるから、お前絶対ぇ、手離すなよっ」


「うんっ」





安全運転希望!!

って、言葉は飲み込んだ。


よく分からないけど、きっと臣は一人で走る時よりも安全運転してくれているんじゃないかって。


最初は隣にいた沙和とエリーくんの姿なんてもう、いつの間にか見えなくて…


わたしが今頼れるのは、臣だけ。


ヴォーンってエンジンを鳴らすと、一気に加速していくバイク。


誰かが何かを叫んでいる横を物凄いスピードで通り抜けた臣のバイクは、尚もまだ猛スピードで走り続けている。


赤信号をぶっちぎって、車のクラクションが鳴り響いて、その少し後、交差点を過ぎたところで、背後から爆音が聞こえてくる。




なにっ!?


そう思って後ろを振り返ろうと、ほんのちょっと身体を臣の背中から離したら「振り向くんじゃねぇっ!」って臣の怒鳴り声。


ビクっとして、わたしはそのまま臣に痛いくらいしがみついてやった。


でも、後ろの爆音が止むことはなくって、前にいる臣の背中に焦りが見えるのは間違いないと思う。




もしかして…―――






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