出逢い3
「生中4つと、焼き鳥盛り合わせ2つ。たこわさ3つと、あとなんだっけ?えーっとあ、だし巻き卵も3つ。それからカクテルはえっと、ライチグレープフルーツと、ソルティードックと、梅酒ロック…で、お願いします」
入口に移動させられた私は仕方なくみんなの注文を取り纏めてあいたお皿を重ねて端に寄せる。
これじゃ会社の飲みと変わらないっつーの。
てゆうか、土田さんと一言も話せてない。
最初に話してよかったとは思うものの不満ばかりが募っていく。
乗り気じゃなかった手前、ブー垂れることもできず、色気よりも食い気に走ってやるんだから。
「リコちゃんごめんね。哲也さんと話したいでしょ?」
気を使って青柳さん、翔くんが私の隣に来てくれた。
翔くんは翔くんで年齢よりも落ち着いて見えて男前だ。
土田さんが来るまでハーレムだったのにみんなわかりやすいなぁ、全く。
「いえ私は合コン自体乗り気じゃなかったから。翔くんこそ、私の隣で退屈だよね?ごめんね、面白いことの一つも言えなくて…」
「俺はここに来れてホッとしてるよ」
ニコッと微笑む翔くんは、私を手伝って色々してくれる気遣い屋だ。
「システムエンジニアって、どんなお仕事?ごめんね、耳にしたことはあるんだけど、そーいうの疎くて…」
「お、興味持った?一日中パソコンと向き合う地味な仕事だよ。お客さんからの要望に応えるっていうか、こーいうの作って!っていうのをパソコンでシステム組んで作るの…あ、退屈?」
クスッて笑う翔くんに首を左右に振る。
「すっごい脳内ハテナだけど、かっこいい!私パソコンとか疎いからー。でも社内に入ってるシステムは、翔くん達エンジニアが作ってるんだねぇ、なんかすごい世界が違う!」
パチパチって小さく拍手をすると、ちょっとだけ照れたように笑ってクシャっと前髪に触れられた。
その瞬間、向かい側にいる土田さんの視線が飛んできて…
「青柳、なに触ってんの?」
え、土田さん?
アヒル口を軽く尖らせた土田さんが翔くんをジッと見ている。
翔くんは苦笑いで「いやつい。ちょっと酔ってるかな俺。ごめんね?リコちゃん」なんて言って煙草に火をつけた。
土田さんに見てもらえて嬉しいやら、恥ずかしいやらの私の気持ちは浮ついていて。
後輩達に囲まれている土田さんの所に行きたいって気持ちが増すものの、結局この合コンが終わるまで一度も隣になんてなれなかった。
お会計を済ませると後輩達が連だってトイレに行った。
これから二次会?行くよね?
春コートを手にしたその時、「リコちゃん」後ろから聞こえた美声にドキッと肩を震わせた。
振り返ると土田さんがスマホを持っていて。
「LINE教えて?」
「え?あ、うん」
「よかった。ほら全然喋れなかったからさ。このまま帰ったら後悔しちゃうよ俺」
画面には土田さんのIDがあって、私はそれを素早く入力して検索をかけた。
すぐに出てきたアイコンを彼に見せて「これであってますか?」そう聞くと「そうそれ!」頷く土田さんに友達申請を押した。
「猫飼ってるんだ?リコちゃん」
「あ、はい。実家ですけど」
飼い猫をアイコンにしている私と、なんだかよく分からないアイコンの土田さん。
友達承認されるとニコッと微笑んでスマホを閉まった。
「連絡する!今度は二人でゆっくり話したい」
ドキドキ心臓が高鳴る。
これは、運命だと思ってもいいの?
だって、トイレから戻ってきた後輩達にLINEを聞かれたら「仕事用のしかないんだけど、それでいい?」って。
私に見せたのとは違うスマホを差し出している。
ゆえに、さっきのはプライベートのスマホってことだよね?
なんかすっごい優越感!
微笑んでいると、スマホに文字が。
今程登録した土田さんだった。
【二次会抜け出そう?今度じゃなくて今夜二人で飲みたい!】
…え、これ。
チラリと土田さんを見ると後輩に囲まれつつもチラッとこちらを見て微笑んだ。
ホンモノ、らしい。やばい、顔が緩む!
「リコさん、二次会どうします?」
後輩に聞かれてニッコリ「私は帰るね」許せ、後輩達。
年功序列って言葉の意味をよく知りなさい。
お店を出て駅に向かう途中、「リコちゃん!」土田さんの声に胸がギュッとして振り返った。
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