運命の人2
「どうか、した?」
「…え?」
顔を覗き込まれてそんな言葉。繰り出される言葉は甘く妖艶な雰囲気だ。ここの間接照明と哲也さんの表情はよく合っている。夜が似合うな、哲也さんは。
「あのそろそろ帰らなきゃ…。」
終電の時間が迫っていた。別に終電を逃してしまったらタクシーで帰ればいいだけ。こんなにもこだわらなくてもいいのに。もういい大人なんだから。
でもなんでかこれ以上一緒にいちゃいけない気がした。
壁にかかっている時計を見て残念そうに微笑んだ哲也さんは、アキラさんを見て「アキラ、会計これで」クレジットを差し出した。
「あ、私払います。」
「なんで?」
「え?」
「なんでそんなよそよそしいの?リコちゃんさっきからちょっと様子が変、だよね?」
そう言われて俯く。気づいてたんだ。人の顔色見るの、やっぱりうまいんだ、哲也さんって。そんなことすら自分と哲也さんとの違いを見せつけられているみたいで胸が痛い。
でも言えない。私達、釣り合ってませんよね?なんて。
その言葉を発したら終わってしまうかもしれないし。…始まってもいない関係のくせに、これから始まることを願っているのは自分なのに、なんでこんな気持ちになってしまうんだろうか。
「とりあえず出ようか?」
なにも言えない私を見かねたのか、小さく息を吐いた哲也さんはこのバーから私を地上へと連れ出したんだ。
風が私達の間をすり抜けていく。エレベーターの中でそっと私の手を握った哲也さん。その手が今も繋がれているのが嬉しい。でも…―――
「ごめんなさい。」
「なんの、ごめん?俺、なんかしたかな?」
ふう〜っと一つ息を吐き出して私はまっすぐに哲也さんを見つめた。
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