恋の見返り(6 / 30)

30分後、臣ちゃんがぐったりして戻ってきた。

だけど顔色は少しだけ戻っていて、すっきりして見えた。


「臣ちゃん大丈夫?」

「死にそうだった…」

「今日は私の家泊まる?ここから近いし」

「マジで!?お前ら絶対ぇついてくんなよ?」


人差し指でみんなを指す臣ちゃんだけど、「おい、未成年の喫煙見逃してやるから、お前も泊まれ!」直人さんがあついお茶を持ってきてそう言った。

ヘビースモーカーな隆二はちょっとだけ面白そうな顔して「いいっすけど…」なんて答えていて。


「ゆきみちゃん、なんかあったら連絡しろよ。俺てっちゃんとこいるから」


だけど今度は直人さんの言葉に朝海ちゃんが反応した。


「てっちゃんって、哲也さん!?」

「え?そうだけど」

「私も行きたい!そっち泊めて!」


突拍子のない朝海ちゃんの言葉に直人さんは鼻で笑うとお茶をさっさと出して「断る」きっぱりと言い放った。

そんなの私だって嫌だ。


「そうだよ朝海ちゃん。ほらタカノリがブスッとしてるよ!」

「…はぁ。仕方ないな。じゃあ今日は諦める。それから直人さんがいない時に行くから安心してくださいね!」


朝海ちゃんの言葉に苦笑いの直人さんだけど、すぐに私を見て小さく息を漏らした。


「マジでゆきみちゃんだけ連れてっちまおうかな、たく…」

「えっ!?」


私の反応を見て満足気に微笑むとポスっと頭に手が乗っかった。

だけど無言でなにも言わずにその手はゆっくりと離れた。

そのままくるりと背を向けて厨房へ入って行く。

直人さん、なんて言おうとしたんだろう?

直人さんを追いかける私の視界に入りこんだ臣ちゃんが「胃がいてぇ」しょんぼり呟いた。

だから私の脳内は臣ちゃんの心配に変わる。

お会計はボンボンのタカノリが毎回全部出してくれていた。


「タカノリご馳走様!いつもありがとう!」


私が頭を下げるとニヤついた顔で朝海ちゃんの肩に腕を回した。


「いいよ、全部朝海に貰うから!」

「え、やだ。私てっちゃんがいい!タカノリ無理私!」


まさかの言葉にタカノリが思いっきり顔をしかめる。

さも有り得ない!って眉毛がピクリと上がる。

相変わらず隆二はそんなタカノリを笑って見ていて、でも次の瞬間、タカノリの視線が私で止まる。

負のオーラを全身にまとったタカノリが私に向かって手を伸ばした。

これ掴んじゃいけないヤツ!

咄嗟に臣ちゃんの後ろに隠れるとチッてタカノリの舌打ちが響いた。


「ゆきみ、俺も泊まる」


続く言葉に首を振る。


「うち狭いから4人なんて無理!」

「やだ泊まる。健二郎、こいつ送ってって」


投げやりに朝海ちゃんを健ちゃんに託すタカノリってば、態度違うよね。

私、タカノリになにされちゃうの?

タダ飯に見返りを求めているタカノリなんて嫌。

と言いながらも毎度お金持ちタカノリに甘えてしまう私達。


「朝海ちゃんは、今まで身体でお支払いしてたの?タカノリ…」

「そうだよ、だからゆきみの番!」

「げー!無理、じゃあ私払う!ご飯食べた分払うから許して?」

「許さない!」


怖いよタカノリ!本気の顔してるし。


「たく、お前ら声でけぇよ…」


呆れた顔の直人さんがレジの前で雑談する私達の輪に入ってくる。

タカノリをジーっと見つめた後「ゆきみちゃんに手出さないで」なんて言葉。

ドキンとまた胸が高鳴る。

直人さんの言葉一つで私の心が簡単に踊り出すんだ。


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