恋の報告(3 / 30)

「私、好きな人ができた!」


授業は午後からだっていうのに午前中から仲間を呼び出してそんな報告。

まだ半分以上みんな寝ている。


「朝海ちゃん起きて!ここで寝たら凍死するよっ!」


グラグラ首元を揺する私に「起きてますよーゆきみさーん」…パチっと大きめの目を開いた。


「好きな人って誰?健二郎?それとも臣?あ、隆二?いや、もしかして、俺?」


名古屋のボンボン地主の息子、タカノリがニヤリと口端を緩めてそんな問いかけ。

パコンっとそんなタカノリの赤い髪を軽く叩いた。


「寝言は寝て言え!」

「いったぁ、殴るなよ、たく。じゃあだーれ?」


ああ、友達に言うのってなんか顔が笑う。

名前があがったここにいるメンズは、うちの大学きってのイケメン集団で。

何故か私がその中に入っているのは不思議なんだけど、なんとなく馬が合う。

この朝海ちゃんとは高校の時からの腐れ縁で、何故かたまに私に対して敬語で話す。


「バイト先のリーダー。直人さんっていうの…背はちょっと小さいんだけど、それ感じさせないぐらい頼りになる人で、私達の三つ上!」

「へえー。直人ってたまにゆきみの口から出てくるよね?」


臣ちゃんがまだ眠い目を擦ってそう聞いた。


「うん、そう、その人!好きになっちゃった。どうしよう、ねぇどうしたらいい?」


モテ男の恋愛マニュアルを伝授して欲しい!って言わんばかりに臣ちゃんの肩に手を乗せてゆらゆらする。

飲もうとしていた珈琲を置いて「おい零すだろ。揺らすな」ギロっと睨まれた。


「じゃあ教えてよー!」

「えーやだ。ゆきみが直人のもんになる手助けなんて絶対ぇやーだよ」


この期に及んでなんてことを!

臣ちゃんの頭もパコンと殴りつけた。


「いってぇな、ちゅーすんぞ!」


慌ててマスクをつけると隆二がゲラゲラ笑うんだ。

もー笑ってないで助けてよ。

朝海ちゃんはタカノリと手握りあってイチャイチャしてるし、健ちゃんはグーグー寝てるし。


「臣ちゃん、お願い!直人さんの彼女になりたいの私!」

「相手にされてんの?お前。だって相手4年だろ?俺ら1年だよ?」


…そんなの分かんないじゃん。

だけど、あの時確かに直人さんは私に2歩近づいた。

直人さんと離れたくないって腕を掴んだ私の手に指を絡めてゆっくりと2歩近づいたのは間違いない…


「あれ?顔赤いけど、なんか確信的なことあったの?」


煙草を咥えた隆二が上目遣いで私を見つめる。

臣ちゃんがジッポを隆二に渡すと手馴れた手付きで火をつけた。

いやいや私らまだ未成年じゃない?


「…分かんないけど、その…えっと、迫られた?」

「はあ―――!?」


耳が痛くなりそうな臣ちゃんの声に顔をしかめる。

さすがにイチャついていたタカノリと朝海ちゃんもこっちに視線を向ける。

健ちゃんはまだ夢の中…。


「なんかちょっとそーいう雰囲気だった。送って貰って、直人さんが帰っちゃうって思ったら咄嗟に腕掴んで…まだ離れたくない!って言っちゃって…そしたら直人さんが、俺も男なんだけど?って、真剣な顔で近付いてきて…」


説明しながらも昨日の直人さんを思い出してまた胸がドキドキしてくる。

臣ちゃんが眉間にシワを寄せて舌打ちをする。


「うーわ、直人絶対ぇゆきみのこと可愛いと思ったよ。俺ならそのまま押し倒すわ!」


ジュルリと涎を舐める仕草をする臣ちゃんから一歩離れた。


「まぁでも見てみないとなんとも言えないから、今日みんなで行く?」

「ねぇねぇ、直人さんの他にイケメンいないの?」


臣ちゃんの言葉に被せるように朝海ちゃんが目をランランとさせている。

そんな朝海ちゃんを見て不満そうにタカノリが頬を膨らませていて。


「イケメン好きな朝海ちゃんが好きそうな人、一人だけいるよ」

「なにそれ、ゆきみさんそれ先に言ってよー!」

「えだって、タカノリめっちゃ睨んでるし。臣ちゃーん怖いよ、タカノリ!」


冗談で臣ちゃんに手を伸ばすと、迷うことなくハグされた。

ムニュって胸元に顔を埋める臣ちゃんに、「離れて―――!!」バタバタする。


「やだね。直人なんかにも渡さないから、俺のペット!」

「俺も嫌だなぁ、ゆきみが直人に抱かれるのなんて」


煙を横に吐き出すと健ちゃんの顔にかかってブワクションッ!って大きなクシャミで目を覚ます。

もうみんな自由すぎるから。

バイトがなくて寂しいと思っていたから、直人さんに逢えるならって、みんなでバイト先で夜ご飯を食べることになった。

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