恋はワガママ(18 / 30)

ドンッて思いっきり力の限り臣ちゃんの胸板を両手で押した。

タイミングよく講義が終了して先生が教室から出て行った。

口を手の甲で擦る私を見て泣きそうな顔をする臣ちゃんをずるいと思う。

だけど悔しくて。

それで思い出した、タカノリにもキスをされていたことを。


「タカノリも臣ちゃんも大嫌い!」


走って校内から出ると、隆二だけが追いかけてきてくれた。

腕を掴まれて足がもつれる。

転びそうになる私を隆二の腕が支えた。

口元を手で押さえたまま隆二を見上げる。


「どうしたの?岩ちゃんと臣にキスでもされた?」


当たり前に図星をつく隆二に苦笑い。


「隆二にとってキスはなに?挨拶?それとも、押し付け?」

「挨拶みたいに岩ちゃんにキスされて?臣の気持ちの押し付けでキスされたってこと?落ち着けって、ゆきみ!」


隆二が逃げようとする私をオープンカフェの椅子に座らせた。

カチッとジッポで火をつけて煙草を吸う隆二に、トントンって頭を撫でられる。

フーフー言いながらも涙目で隆二を見つめる私を優しく見つめ返す隆二に、少し落ち着きを覚えた。


「だって悔しいっ!せっかくせっかく、直人さんに上書きしてもらったのに…」


あんなに幸せいっぱいだったキスが、一瞬で崩れ落ちたなんて。

だけど言ってからハッとする。

目の前の隆二が心底吃驚した顔で私を見たから。

咥え煙草を落としそうになった隆二は、慌てて手で煙草を持ち変えて「マジかよ」小さく呟いた。


「ちゅーしちゃったの?直人と?決まりじゃん、それ…」

「臣ちゃんの気持ちには答えられないし、タカノリは朝海ちゃんのことすきだと思ってる。隆二…私直人さんのことすきになっちゃダメだったの?無理だよそんなの。今更無理…」


なんだかよく分からない感情が爆発して涙が零れた。


「ゆきみは可愛いから、みんなゆきみのことすきなんだよ。俺もね。だから得体の知らない直人に取られるの、嫌かも。けどそれは俺らの気持ちだからこれもゆきみにとっては押し付けになっちゃうよな?ごめん」


ポンポンって隆二の優しい手が頭に触れる。


「直人さんはちゃんとした人だよ。得体の知らない人だったらすきになんてならない…」


悪気がないのは分かってる。

でもすきな人のことを第三者にとやかく言われるのが、こんなにも苦しくて嫌だなんて知らなかった。

直人さんのことなにも知らないくせに、言われたくない!って、本音は口に出せなかった。

隆二はそれでも気遣い屋の大事な友達だから。

私がちゃんと分かってる。

誰にどう言われようと、私が直人さんをちゃんと分かっていることに胸を張ればいいと。


「ごめんね、泣かないで」


楽しみにしていたデートの日。

私の心はブルーだった。

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