恋のヤキモチとオネダリ(15 / 30)

シーンとしたここ、私の住むアパートの前。

着飾った私を見て直人さんが眉毛を下げた。

なにも言わない直人さんに、沈黙が辛くてそっと腕を掴んだ。

キスを見られたことが恥ずかしてく悲しくて。

酔いは少し覚めたけど、まだ十分に効果はある。


「約束破ってごめんなさい…」


お酒、直人さんの前以外で飲んだこと。


「…うん」

「服代はバイトして返すって決めてあるから」


タカノリのお金で払った服に罪はないけど、こんな形で直人さんに披露するのは違うって。


「…うん」


こんなことが言いたい訳じゃない。

だけど言葉が見付からなくて…

一歩私に歩み寄った直人さんに、抑えきれない気持ちが溢れそうになる。


「キスなんて、したくなかった」

「………」

「こんな風に見られたくなかった」

「………ゆきみちゃん」

「見ないでください、こんな汚い私。直人さんにだけは、見られたくない…」


隙だらけの馬鹿な自分を激しく後悔した。

悔しいのと、悲しいのと、色んな感情が混ざって涙がボロボロ零れる。

私の腕を掴んだ直人さんに、俯いて首を左右に振る。

直人さんに触れられる資格なんてないの。


「分かってる。あいつが俺に気付いてわざとキスしたって、不可抗力だけど――――ムカつく。目の前でキスされて、すげぇムカついた…」

「なお、と、さん?」

「俺とのデートの為に綺麗にしてくれたの?」

「え?はい。服なくて、」

「可愛いよ、すげえ。けど俺いつものゆきみちゃんで十分だよ。だからタカノリ?に頼らないでよ、色々心配だし」


ポンッていつもの直人さんの眉毛の下がった顔に胸の奥がホッとする。


「はい」

「うん。まぁキスだけでよかった。よくはねぇけど…」

「はい…」

「ほらもう家入れ。俺も帰るから…」


私の背中を押してアパートのドアの前まで誘導する。

あの日、ここでまだ離れたくないって言ったことを不意に思い出した。

あの時直人さんのことが好きなんだって気づいた私。

時を刻む事に直人さんをもっと好きになっているよね、私。


「直人さん、まだ離れたくないです」


思わず口を継いで出た言葉に苦笑いを返す直人さん。

ポンッて私の頭に手を乗せて「だから言ったよな?俺も一応男だよって…」そう言いながらも一歩距離を詰める直人さんにドキドキする。


「まだ一緒にいたい…」

「…ゆきみ、ちゃん」

「キスの上書き、直人さんがして?」


自分でも笑っちゃうって思う。

シラフだったら言えないような言葉がどんどん溢れてきて。

更に私に対してもう一歩近づいた直人さんは、手首を掴んで「俺でいいの?」って聞いた。

鼻と鼻がくっつきそうなこの距離でもうなにも言うことなんてない。

だから小さく頷いて目を閉じた私に、初めての直人さんからのキスが舞い降りた―――――

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