恋の邪魔者(14 / 30)

その後美容室に連れていかれた私。

初めて体験したヘッドスパ。

気持ちよくて軽く意識が飛んだ。

その後メイクとネイルもしてもらって…―――今はフランス料理のフルコース。

当たり前に注がれるウェルカムシャンパンを一口飲むと、昨日飲んだ苦いビールとは大違いですごくサラリと喉に流れていく。


「美味し…」


思わず口元をおさえて零すと、綺麗にナイフとフォークを使いこなすタカノリが満足気に微笑んだ。

お金を派手に使うことに何の罪悪感もないタカノリ。

一友達の私にまでこんな扱いをしてくれるタカノリ。


「俺と付き合ったら毎日この生活あげるよ?」


なんて、心にも思ってもないことを言うんだ。

そもそも、臣ちゃんが許すわけないじゃん。


「今日だけでお腹いっぱいだよ、タカノリ…」


貧乏学生にこんな贅沢ダメだよ、タカノリ。

私は居酒屋バイトで十分。

うううん、居酒屋バイトがだいすき。

あ、なんか、やばい、直人さんに逢いたい。

お酒飲んじゃった、直人さんの前以外で…

アルコールというのは、自分の気持ちを高める効果があるのだと。

LINEを開いた私は直人さんに一言【お酒飲んじゃいました】そう送った。

すぐに既読になったらどーしよう?と思う私の気持ちとは裏腹に、なかなか既読になりそうもなかったからパタンとスマホを裏っ返しにして、再びシャンパンを口に運ぶ。

滅多に食べられないフレンチのフルコースと高級なシャンパン。

タカノリの手で綺麗にしてもらった私はふわふわした雲の上にいるような感覚に陥るほど、美味しいお酒を飲まされていた。

だから気づかないし、とっくに忘れていた。

直人さんにLINEをしたことすら。


「今日は俺ん家泊まる?」


タカノリの腕に支えられて耳元で甘い誘惑。

このままタカノリのとこなんて行ったら絶対ダメ!って分かってるけど、頭がふわふわして身体の言うこともきかない。

だけど精一杯の理性で首を横に振った。


「アパートに帰る。タカノリ送って」

「仕方ねぇな、んじゃゆきみん家でいいよ」


そこに意味なんてないと。なんてことないタカノリの言葉に私は微笑んでタカノリが捕まえたタクシーに乗った。

コテっとタカノリの肩に寄り掛かって目を閉じると、次の瞬間にはもう私のアパートの前だった。

タクシー代を払って一緒に着いてくるタカノリ。

だけど、足元がおぼつかなくてグラリとバランスを崩す。

そんな私を当たり前に片手で支えるタカノリに「鍵出すから待って」鞄を探る私からほんの一瞬視線を後ろに移すと「ふぅん」そんな一言の後、顎を固定されてちゅ、って小さなキス。

え、なに?

カツンってヒールの音が静かな民家に鳴り響く。

動きたいけどタカノリにホールドされて動けない私に構うことなくキスを繰り返すタカノリ。

舌がニュルリと入り込んでジュルって音をたてて吸いつかれて…

やめて、離して!

思いっきり渾身の力を込めてタカノリから離れた。

途端に視界がグラついてまたカツカツってヒール音が響く。

だけど同時に聞こえた足音はタカノリのもんじゃなくて…

無言で私を掴む直人さんにぶわっと涙が溢れた。


「直人、さん…なんで」

「LINE、既読になんねぇし、電話も出ねぇから心配になって…」


いつもの笑顔なんてここにはなくって、眉間にシワを寄せて怖い顔をしている直人さんに余計に涙が溢れる。


「ねぇゆきみのことすきなの?」


挑発的なタカノリの声に直人さんはジロリと睨み返す。


「お前に関係ない。もういいから帰ってくんない?」


声色でイライラしているのが分かる。

こんな直人さん初めて見る。

ジリっとタカノリが一歩近づくほど、直人さんは私を後ろに隠した。


「元カノと切れてないならゆきみに手出すなよ?俺ら黙ってないから」


…何も答えない直人さんに、胸が痛い。

そんな直人さんを見てタカノリが偉そうに鼻で笑うと、またすぐにタクシーを呼び寄せて私と直人さんの前から消え去った。

 / 

back