恋は苦しい(9 / 30)

「なんかされたの?直人に…」


心地よい臣ちゃんの声が間近に聞こえる。

臣ちゃんを呼び出してどうするつもりだったんだろうか?


「臣ちゃんごめんね、こんな風に呼びつけて…」

「ごめんいらねぇから理由言えよ。気になって離せねぇじゃん俺。な、なにがあった?」


ゆっくり私を離すとほんの少し屈んで目線を私に合わせたんだ。

大きく呼吸をして今見た直人さんを思い浮かべるだけでまた涙が溢れてくる。


「大したことじゃないと思うけど、胸が痛くて苦しくて、気づいたら臣ちゃんに電話してて。…直人さんが女の人連れてきた。中に連れてきた。彼女かもしれない…」


泣きながら話す私に「ふうん」って興味なさげな臣ちゃんの返事に溜息すら漏れそうになる。


「苦しいの、俺に投げられる?」

「え?」

「お前の苦しいの、俺に投げれば全部とってやるよ。今までゆきみに特定のヤツがいなかったからこんなことも思わなかったんだろうけど、ゆきみが1人で苦しむなら、俺がそれ全部とってやりたい。ゆきみが苦しいと、俺も苦しいよ」


ギュッと臣ちゃんの温もりに包まれた。

ふざけて抱きしめられたことなんて何度もある。

だけどこうして本気で想いをぶつけられたのは初めてで。

私が直人さんを好きになったことで、臣ちゃんまで巻き込んでいるんだって。


「お前が直人を想って苦しむ気持ちそのまま、俺もお前が好きだから苦しい…」

「臣ちゃん…」

「直人じゃなくて、俺を好きになれよ…」


臣ちゃんの告白の後、距離があいて見つめ合う。

ドクドク心臓が高鳴っていて目を伏せたらどうにかなっちゃいそうで。

スッと臣ちゃんの手の平が私の口に押し当てられた。

その反対側、臣ちゃんが手の甲に唇を押し付ける…。

臣ちゃんの手ごしのキス…。

目を閉じて私を強く抱きしめる臣ちゃんに、ほんの少しドキドキした。


「次はまっさらでキスするから」


そう言うと臣ちゃんは私を離す。

ニコッて微笑むと「ほら、行けよ。待っててやるから!」ポンと背中を押す大きな手。

臣ちゃんも隆二もタカノリも健ちゃんもかっこいい。

だけどやっぱりその種類はどれも違くて。

直人さんへの想い以上には思えない。

この苦しみは、臣ちゃんにもリンクしちゃう。


「臣ちゃんありがとう」


臣ちゃんが来てくれてよかった。

急いで戻ると、直人さんの姿はもうスタッフルームになかった。

だけど、哲也さんのまかないの横、苺の飴が置いてあって、直人さんのずるい優しさにまたちょっとだけ泣きそうになった。

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