「…なっ…」
「お前を手放すほど馬鹿じゃねぇし」
「…冗談はほどほどにして下さい」
「冗談なんか言うかよ」
「からかわないで下さい」
「分かった、それなら、命令。社長命令だ。今日づけで一ノ瀬ユヅキを社長専属秘書に任命する」
そう言うと、社長は煙草を灰皿で潰して、私の腕を引くと、そのままベッドに組み伏せた。
抵抗する暇もなく、唇を塞がれて…―――
真っ白になった頭の片隅で微かに蘇る記憶…
「帰りたくない」
そう言ったのは私の方だった。
カランってバーのドアが開いて、社長が私を見つけた時には既にお酒を浴びていて…。
それでも物珍しそうな顔で私の隣に座った社長は、独り言のようにアキラのことを喋りまくる私の言葉に、ただ静かにウィスキーを飲みながら聞いてくれていた。
社長からしたらくだらない話だろうに、文句も言わずに聞いてくれて、酔っ払いながらも調子にのった私は、誘い文句を言って…―――
その時耳元で社長が囁いた言葉…
―――思い出せない。
けれど、この激しいのに、優しい指とか、熱く熱を帯びた唇とか…
私の身体が全部覚えている。
ヤバイ、気持ちいいっ…
「ユヅキっ…」
吐息交じりで私の名前を呼ぶその声に、どうしてか涙が溢れたんだ…―――
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