「あの社長…」
「啓司でいいよ、二人っきりの時は」
私の言葉を遮ってまで言う台詞でしょうか?
まるで私の話を聞く気が見えないであろう社長。
“啓司”なんて呼べるわけないよ、お給料貰っている人から…。
「それはちょっと…」
「なんで?」
「なんでと言われましても…」
「いーだろ、誰もいねぇし」
「そう言われましても…」
「敬語もいらねーよ?」
「あの、社長! ちょっと聞いてもらえます?」
思わず強めの口調で言ったら、ニヤって口端を緩ませて私に話しを促すように、手を差し出した。
「なかったことにして貰えませんか?」
それが一番いい。
「なにを?」
「ですから、この関係…。私と社長は何ともなっていないって。今まで通りにして貰えませんか?」
「無理だろ。身体が覚えてる」
不意うちっていうか…なんていうか。
株式会社「クロッキー」は、大手アパレル会社で、そこの社長である黒木啓司は、その若さで社員500人の頂点に立っている。
自信家で、クールで、ルックスもよくて…何をとっても引けをとらないその風貌は社外にも留まらず、カレの元で働きたいと思う人は数知れず。
女なら、一度は抱かれたいと思う、雲の上の存在である。
そんなクロッキーに入れただけでもすごいのに、私ってば…
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