目覚めの朝4
「あの社長…」

「啓司でいいよ、二人っきりの時は」


私の言葉を遮ってまで言う台詞でしょうか?

まるで私の話を聞く気が見えないであろう社長。

“啓司”なんて呼べるわけないよ、お給料貰っている人から…。


「それはちょっと…」

「なんで?」

「なんでと言われましても…」

「いーだろ、誰もいねぇし」

「そう言われましても…」

「敬語もいらねーよ?」

「あの、社長! ちょっと聞いてもらえます?」


思わず強めの口調で言ったら、ニヤって口端を緩ませて私に話しを促すように、手を差し出した。


「なかったことにして貰えませんか?」


それが一番いい。


「なにを?」

「ですから、この関係…。私と社長は何ともなっていないって。今まで通りにして貰えませんか?」

「無理だろ。身体が覚えてる」


不意うちっていうか…なんていうか。

株式会社「クロッキー」は、大手アパレル会社で、そこの社長である黒木啓司は、その若さで社員500人の頂点に立っている。

自信家で、クールで、ルックスもよくて…何をとっても引けをとらないその風貌は社外にも留まらず、カレの元で働きたいと思う人は数知れず。

女なら、一度は抱かれたいと思う、雲の上の存在である。

そんなクロッキーに入れただけでもすごいのに、私ってば…
_6/33