「…社長」
「啓司」
「社長!」
「啓司だって」
「でも…」
背を向けているカレには見えまいけれど、私と対面にいるのは、紛れもなくアキラ。
すっごい顔でこっちに歩いてくる。
「どういうこだよ? お前オレのもんだろが!」
そう言って私の腕を掴もうとするアキラの腕から、スッと離された。
私を背に隠す啓司は、得意気な顔でアキラに視線を送る。
「お前勘違いしてんじゃねぇぞ? ユヅキはオレの女だ。来月結婚すんのオレ達」
「は、何言ってるんすか、社長! 変な冗談勘弁して下さいよ」
「お前こそ、冗談は顔だけにしろ! ユヅキ、ちゃんと言ってやれ?」
うわ、ここで私にふる?
…絶対ふるって思っていたけど…。
でもこうやって私が前に出れるのは、ちゃんと啓司が守ってくれるって信じているから。
「アキラ、ごめんなさい。別れて欲しい…私、啓司さんのこと、好きになった。だから結婚できない…」
「は、お前ふざけんなよ!」
こっちに向かってくるアキラをポーンっと突き飛ばす啓司は、「悪いな、黒沢!」そう笑って私を直通エレベーターへと押し込んだ。
扉が閉まると「アハハハハ」って思わず笑いが零れた。
「ありがとう、啓司」
「なにが?」
「うん。私を見つけてくれて」
「当たり前」
「…ちゃんと言ってないよね?」
「あ?」
「あなたを愛してる」
「………」
ボッて耳まで真っ赤になって…――――
照れ隠しみたいに、私の髪をスッと撫でる啓司に、甘いキスを贈った。
すぐそこにあった幸せに、今気づいたよ…―――
*end*
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