「後でルームサービス頼むか…」
部屋に入ると、早速上着を脱いで、ネクタイを取り外したカレは煙草を咥えて火をつける。
一連の流れを見ていた私は、またも見とれてしまうだけで…
煙草を咥えたまま、シャツの腕のボタンを外すその動きも、とても綺麗で、やっぱり私はただ見とれてしまう。
軽くシャツを腕まくりしてカレはようやくソファーに座った。
首を回してふう〜っと煙草の白い煙を吐き出した。
それからおもむろに鞄の中から箱を取り出して…
カタンっとガラスのテーブルに置いた。
「え、これ…」
「そう。これを作った奴の顔が見てみたいって思ったんだ」
「…私の作品」
まだ入って間もないっても三年目くらいの時、新しいヒールのCM作成のプレゼンをすることになって、その時使ったシャンパングラスだった。
それは、男からしたらくだらないのかもしれないけれど、私は、女の憧れる結婚式をそのCMに全て注ぎ込んだ。
その背景にあったハワイでの二人だけの結婚式。
残念ながらプレゼンは負けて、その靴と揃いで販売予定だったそのシャンパングラスも今となっては苦い思い出とでもいうか…。
初めてのプレゼンで、初めての負けに、私はその時物凄く落ちこんでいた。
でも、その時くらいにアキラとの付き合いが始まって…
だからアキラがずっと支えてくれて…―――
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