「そんな大事なこと黙っとくなよ」
「ごめん」
「だいたいお前一緒に行かねぇとダメなの? どうせ結婚するんだから、さっさと仕事辞めろよ」
イラついているから、アキラの本音がチラリと見え隠れしていて、そんなことすら今の私にはうっとおしかった。
こうなったらもう、アキラって存在が負け犬にしか見えなくて、とおぼえをしているアキラを哀れに思えた。
私が傷ついたこと、少しぐらい分かって貰ってもいいよね?
「アキラ、私仕事辞める気はないから」
「は、お前何言ってんだよ。あんな奴の傍でなんか働かせられるかよ!」
完全にムッとしたようにアキラが私を威嚇するみたいに睨んだ。
「どうして社長を悪く言うの?」
「は、どういう意味だよ?」
「かいかぶりすぎだよ、あの人のこと。とにかく私、仕事は辞めない!」
押さえられていた腕を振り払ってアキラの腕の中から飛び出した私は、スッキリしていた。
今までいかに言いたいことを我慢していたのかと思うと、自分を不憫(ふびん)にさえ思えてしまう。
素直な大人になれるのなら私だってなりたかった。
けれど、今更もう遅い。
ここから戻ることはできない。
だったら進むしかない。
隣にいるのが啓司さんだったら、自分を偽らないで進める気がした。
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