「もう、社長! 子供みたいですよ?」
「んな口聞けるかよ、これでも?」
「はいっ?」
ちょっと!!!
掴まれていた手首を引き寄せられたと同時、直通のくせに一番広くて豪華なこのエレベーターの壁に、私は社長に押し付けられている。
文句を言おうとした私の口を、簡単に塞いでくるこいつ…
抵抗しようにも、両腕を壁に押さえつけられてしまって、さすがの私も男の力には勝てるわけもないっ。
なにすんのよっ!
この変態社長っ!!
ケダモノ!!
欲求不満っ!!
最低っ!!
脳内で悪態をついているのも最初のうちだけで、次第に深まるその口づけに、頭の中まで真っ白になっていく…―――
こんなの有り得ないって思っているのに、身体と心は別物なのか?いつの間にかキスに答えている自分がいて…
「ユヅキ」
切なそうにそう私を呼ぶ社長の背中に腕を回してしまった。
ポーン…
エレベーターが社長室についた音と同時に私は崩れ落ちるかのように、絨毯(じゅうたん)の敷かれた廊下にペタンと座りこんでしまう。
はぁ、はぁ…
自分でも笑えるくらいに上がった息に大きく肩で呼吸を繰り返す。
「お前ほんっと感度いいね」
そんな社長の勝ち誇ったような言葉にも、言い返せない。
好きじゃない人でもこういうことできるんだって…
今まで自分は勝手に純粋だって思ってきたけれど、そうじゃないんだって、そう思うと少し切なくて…
でも、
「オレ以外の男にそんな顔は見せんじゃねぇよ」
私の前、膝をついて髪を優しく撫でるその温かい手を、簡単に振りほどくことができずにいた。
目の前のこの人はいつだって偉くて、我儘で…
「そんな顔って…」
「エロイ顔」
「………」
「その表情、口元、声…身体……――オレのもんだ」
さっき、アキラにプロポーズされて嬉しかったほかほかした思いとは少し違う、チクチクするような感情を何と呼べばいいのか、私には分からなかった。
_10/33