プロポーズ3
「もう、社長! 子供みたいですよ?」

「んな口聞けるかよ、これでも?」

「はいっ?」


ちょっと!!!

掴まれていた手首を引き寄せられたと同時、直通のくせに一番広くて豪華なこのエレベーターの壁に、私は社長に押し付けられている。

文句を言おうとした私の口を、簡単に塞いでくるこいつ…

抵抗しようにも、両腕を壁に押さえつけられてしまって、さすがの私も男の力には勝てるわけもないっ。

なにすんのよっ!

この変態社長っ!!

ケダモノ!!

欲求不満っ!!

最低っ!!

脳内で悪態をついているのも最初のうちだけで、次第に深まるその口づけに、頭の中まで真っ白になっていく…―――

こんなの有り得ないって思っているのに、身体と心は別物なのか?いつの間にかキスに答えている自分がいて…


「ユヅキ」


切なそうにそう私を呼ぶ社長の背中に腕を回してしまった。

ポーン…

エレベーターが社長室についた音と同時に私は崩れ落ちるかのように、絨毯(じゅうたん)の敷かれた廊下にペタンと座りこんでしまう。

はぁ、はぁ…

自分でも笑えるくらいに上がった息に大きく肩で呼吸を繰り返す。


「お前ほんっと感度いいね」


そんな社長の勝ち誇ったような言葉にも、言い返せない。

好きじゃない人でもこういうことできるんだって…

今まで自分は勝手に純粋だって思ってきたけれど、そうじゃないんだって、そう思うと少し切なくて…

でも、


「オレ以外の男にそんな顔は見せんじゃねぇよ」


私の前、膝をついて髪を優しく撫でるその温かい手を、簡単に振りほどくことができずにいた。

目の前のこの人はいつだって偉くて、我儘で…


「そんな顔って…」

「エロイ顔」

「………」

「その表情、口元、声…身体……――オレのもんだ」


さっき、アキラにプロポーズされて嬉しかったほかほかした思いとは少し違う、チクチクするような感情を何と呼べばいいのか、私には分からなかった。
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