「結婚しようか」
まさかのプロポーズが飛んでくるとは思わなくて…
「え…」
「いや? ずっと一生側にいてくれない?」
「…私でいいの?」
「お前がいいんだ」
「嬉しい」…そう言おうとした瞬間だった。
「一ノ瀬」
何となく怒ったような低い声がして、私の視線はそっちに向けられる。
「社長…」
「仕事だ、付き合え」
「あっ、はいっ!アキラごめんまた後で」
煮え切らないようなアキラの顔に気づくわけもなく、私が社長の元に駆け寄ると、長い腕が伸びてきて、私の手首をガッチリ掴んだ。
別に腕を握る必要はないはずなのに…。
「あの、社長!」
「なんだよ?」
「腕、離してもらえませんか?」
「嫌だっつーの」
はい?
今なんつった?!
驚いた顔を見せる私に、振り返った社長は再度声を上げて「嫌だよ」って答える。
なに子供みたいなこと言ってんの、こいつ!
「あの、子供じゃないんですから」
呆れたような私の口調に、社長は苛々しているのか、「ちょっと、黙っとけ」って一言。
勿論その腕は私の手首を掴んだままで…――――――
長い廊下を歩ききって、角を曲がった場所にあるエレベーターホールにある社長室直通の左にあるエレベーターのボタンを押すと、ポーンとこもった音がして、すぐに社長の手で中に押し込まれた。
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