TOKYO2
この土日で家を見つけてなんとか美月の所から出なきゃ。
なんならしばらくはホテル暮しでもいいかな?
どーせ会社からお金は出るし。
なんかあったら信ちゃんがどうにかしてくれるはず。
あの人人脈だけは強いから。
ふふって微笑んでるとブーとスマホが着信を告げる。
どうやら信ちゃんのしもべの丸ちゃんが到着した様子。
「もしもし」
【ゆきみさん?丸やけど、今どこ?】
「もう東京ついた。今とりあえず美月達とご飯食べようって」
【そこ合流してええ?村さんに頼まれてゆきみさんの家俺が探しとってんよ。いうてもこっちの同期に頼んどっただけやけど俺も!】
「え、そうなの?有難い…えっとじゃあとりあえずご飯待ってるから来れる?」
場所を伝えて美月に説明したら一緒に丸の到着を待っててくれるって言われて、そこで待つことにした。
それにしても美月ってば、一体どうやってこのイケメンを落としたんだろ?
美月は今年4年目の後輩で、最初の2年間を大阪支社で過ごした。
同じ部署に配属されたってこともあって、私にすごく懐いてくれて、色んな話をした。
そもそも、私の同期であるきみくんと美月が付き合いだしたのは美月が入って半年後のことで。
何かと美月を気にかけているきみくんと美月が付き合うのは自然だった。
だから私達の話題は専らきみくんであり、私の恋人信ちゃんのことで持ちきり。
だけど、3年目で美月が東京本社に異動になったことで、2人の溝は大きくあいてしまい、あんなに仲良さげに思っていたのが嘘かのように呆気なく別れてしまった…ように思えている、私には。
それ以降も私には頻繁に連絡をくれていた美月だけど、さすがに簡単に会える距離でもなかったからか、会うのは本当に役一年ぶり。
そんな美月からほんの2週間前、【彼氏できました】って報告を受けたのは。
傷心の美月を同期の登坂くんが色々面倒みてくれたみたいで、今は臣くんに夢中だって。
それはそれで嬉しいことだけど、きみくんは大丈夫だろうか!?
意外と女々しいのは男の方だと思う。
同棲してるなんて、耳に入れても大丈夫だろうか?
「そう言えばすばるさんの異動はどうなったんですか?」
美月が登坂くんから離れて私の腕に絡みついてそう聞かれた。
すばるというのは私の同期であって、とにかく頑固なおっさんだった。
おっさんっていっても年齢は私と同じだけど。
「東京の水は肌に合わんって、異動させるなら辞めたるわ!って専務に直談判してたよ。最終的には信ちゃんが口出しして異動取り止めになったんだけどね」
「すごいっすね、ゆきみさんの彼氏。噂は聞いてますよ。西のエースはめちゃくちゃやり手だって…」
「う〜ん、単にゴマすりがうまくてセコイだけだと私は思うけどね。まぁでも口は達者!信ちゃんの話術はなかなかすごいものがあるというか。落とせない人は今のところいなかったからね。だから本人も調子にのってるのよ!」
「ゆきみさんには敵わないけど?」
登坂くんが面白ろ可笑しいって顔でそう聞いてくる。
「どうだかな〜。結局信ちゃんの最優先事項は仕事だから。付き合いとかそういうのばっかで、私のことは二の次…うううん、三の次か四の次ぐらいかもしれない。下手したら10番目ぐらいなのかも…」
「それ不満じゃないんすか?」
「分かんない。不満といえば不満だし、一人の時間がわりと好きな方だからかな、それほど苦でもない…」
正直な気持ちだった。
デートをすっぽかされても、先約を取り消されても、何でか怒りという怒りは起らなくて…
そんな私を見て美月が一言、言い放ったんだ。
「ゆきみさんはそんなに村上さんのこと好きじゃないんじゃないですか?」
…美月の言葉にドクンと心臓がうごめいた。