遠距離の難しさ3
「私って頼りなかったかなぁー」
その言葉だけなのに「美月ちゃんのこと?」そう当てちゃう岩ちゃんってすごい!
逆に亮くんは煙草を咥えているだけで何も言ってこない。
ただ、私のコートの裾を何故か軽く握っている亮くん。
それって普通女がやることだよね?
まぁいいけど。
「岩ちゃんって頭良くてパソコンできるだけじゃないんだねぇ、モテるでしょ?」
私の問いかけに眉毛を下げてニッコリ微笑んだ。
「亮さんのがモテるでしょ!てゆうか、頭良くてパソコンできるだけって、なによ?」
「なんか、人のことよく見てるなぁーって。頼りないって言葉だけで美月を連想させた岩ちゃんがすごいなーって思ったの」
「人間観察好きだから俺!さっきベランダでなんかあった?直人さん結構見てらんないんだけど俺!気づいてるよね?ゆきみさん?」
岩ちゃんの言葉にぱちくり瞬きを繰り返す。
直ちゃん?
首を傾げて「直ちゃん?」そう言うとすごい変な顔で鼻で笑われた。
「なるほど、気づいてないなら仕方ないかー。分かりますよね、亮さんは?」
岩ちゃんの言葉に白い煙を吐き出して亮くんは煙草を灰皿に押し潰して「ゆきみさんのこと好きやって、直人が!」…簡単にそう言うんだ。
目の前にあった電信柱に突っ込みたくなる。
「言っちゃったよ、亮さん!」
「いや分かるやろ、誰が見ても!」
…そんな気はしていたけど、そう言われると照れるもんがある。
かといって直ちゃん本人に何かを言われたことでもなく、そもそも私には信ちゃんがいるし直ちゃんの入る隙はない。
「どーすんの?ゆきみさん?なかなか会いに来てくれん村さんより、傍で優しくしてくれる男選ぶ?」
亮くんの手が裾から肩に移動する。
急に密着して亮くんの煙草混じりの吐息が肌を掠める。
至近距離で見ると彫りが深くてかっこいい亮くんは、大阪支社でも大人気だった。
特定の彼女を作らないで適当に遊ぶのが好きみたいで、ずーっとフラフラしていたけど。
「亮くんにとやかく言われたくないなぁー」
「はは、そらそーか。面倒やねん俺、好きとか嫌いとか…」
「かっこいいから言えるんだよそんな台詞。信ちゃんが聞いたら殴られるよ?」
「えーそしたらゆきみさん守ってやー」
「嫌よ。私だって守られたい…」
「直人さんなら守ってくれるんじゃない?」
岩ちゃんの直球に苦笑い。
みんな信ちゃんのことはあまりよく思っていないのかもしれない。
確かに信ちゃんは仕事人間だけど、それだけじゃないってこと私はちゃんと分かってる。
それより何より私は―――――「ヤスくんはやめといた方がいいよ?」また岩ちゃん、鋭どすぎない?
私何も言ってないのに。
けど、ルームシェアしている岩ちゃんが言うなら章ちゃんはむしろなんかあるの?
「…別に章ちゃんのことは何とも思ってないよ」
「ヤスあれまだ本性出してへんもんなぁ、」
「亮くん知ってるの?」
「俺同期やし、ヤス!あいつたぶんむっちゃブラックやで?腹黒。ニコニコしてる顔の裏側クソブラックやで」
…信じらんない。
章ちゃんに限ってそんなの想像できないし。
「一理あると思う、それ。ヤスくん女の子の扱いすげぇうまいからみーんなコロッと騙されるんだよねぇ。だったらまだELLYのが裏がない。直球だからいつでもELLYは。まぁけど、ゆきみさんには俺、直人さんが似合ってるって思ってるけど…。ほら俺、村上さん知らないし!」
なんか、みんな人の心かき乱しすぎ。
「そーいうの自分で決めるから!」
ちょっと腹がたって私はズカズカコンビニまで歩くと籠の中にビールを詰め込み始めた。