遠距離の難しさ2
「ゆきみさぁん!安田と何話してんのぉ?」
ガラってベランダのドアが開いて中から赤い顔の美月が顔を出した。
あっは、酔ってるし!
「おい美月お前、俺んが年上やぞ?なんでいつもヤスダやねん?」
「だってー安田年上に見えない!」
キャハハハって笑う美月に章ちゃんは呆れた顔でぺコンっと軽いデコピンをする。
「しゃあない、お前は特別やで!たく。この酔っ払い!臣に怒られんで?横山くんもおるんやから大人しいしとき?」
美月を後ろから抱えてくるりと反転させると2人で部屋の中に戻っていった。
やっぱり章ちゃんの優しさはみんなに向けられているよなぁー。
「はぁー信ちゃん早く逢いに来て。死にそう…」
「…大丈夫?」
肩にポンと手を置かれて、振り返るとそこには心配顔の直ちゃん。
この人も章ちゃんに負けず劣らず優しい人だった。
「うん大丈夫。直ちゃんって人の心配ばっかりしてるよね?」
私の言葉に眉毛を下げた直ちゃん。
ベランダの柵に手をかけて息を漏らす。
「そうかな、俺結構人選んでやってるよ?」
「…えっ!?そうなのっ!?」
「…うん。わりと…」
「え、私になんか見返り求めてる?…わけないよね…」
「………」
ニコッと微笑む直ちゃんは私の肩に私の肩に腕を回して耳元で囁いたんだ。
「2人で抜けて俺ん家行く?…なーんて、えっ、ゆきみさんっ?え、ごめん俺冗談のつもりで…」
思い出してしまった。
初めて信ちゃんにそうやって誘惑されたこと。
あの時も信ちゃん耳元で、そうやって囁いて私を誘い出したから。
「あれー直人さんゆきみのこと泣かした?」
ピンク頭のエリーがひょこっと顔を出して、だから私はすかさずエリーの胸にギュッと飛び込んだ。
「お、どうした?どうした?恋しいのかな…」
ポンポンって背中を撫でてくれるエリーにジワリと涙が溢れてしまう。
やだな、私。
こんな泣き虫じゃなかったはずなのに。
傍に信ちゃんがいないと、こんなにも弱くなってしまうの?
たかが信ちゃん1人いないだけで、こんなにも苦しいの?
「遠距離って難しいね、ゆきみさん。ごめん…」
直ちゃんの切ない声に首を横に振った。
美月がどんな想いできみくんと別れたのか、ちゃんと聞いておかなきゃって。
臣くんの隣で楽しそうに笑っている美月。
今が幸せならそれでいいって思うけど、1人でずっと、苦しんでいたんだと思うと、胸が痛かった。
「人間って非力だねぇ…」
「なんで?どうしたの?急に」
お酒がなくなりそうだからって、くじで3人買い出し組を決めた。
子犬岩ちゃんと、うちの横山班の亮くんと私の3人。
小さく呟いた私の言葉に岩ちゃんが足を止めた。