ワガママ3



結局連絡のつかない美月と登坂くん。

まぁ仕方ないっちゃ仕方ないっ。

でも煽った責任ぐらいは取ってもらわないと。

きみくんと丸が泊まるホテルの一室。

そこに私も一緒についてきた。

先にシャワー浴びていいって言われて疲れた身体を癒していると、湯船に浸かっている私のスマホが着信で揺れた。



「信ちゃん!」

【おう、どうや?】

「仕事終わったの?」

【おん、今な。ようやく家についてん】

「そっか、お疲れ様」

【なんや元気ないやん?なんかあったん?ヨコと丸会うたやろ?】

「うん。ちょっと色々あってね。信ちゃんの声聞いたら少し元気出たかも…」

【かもかい、】

「ふふ、安心する、そんな汚い声でも」

【あほ、ええ声やろ。一言多いねんお前!関西人の血流れてんちゃうか?たく。ほんで、家どうなった?見つかったんか?】

「…まだ。シェアハウスに住もうかと思ったんどけど…」

【は?シェアハウス?なんやお洒落ぶって、東京やからって、】

「ほら私って歳のわりにそこそこ可愛いから、直ちゃんがすごく心配してくれてね」

【…直ちゃん?誰や?】

「あ、直ちゃんは丸の同期の子でこっちで家探ししてくれてて。同じ会社の男3人でシェアハウスしてるとこが一部屋空いててね、そこがいいかなーって。自分の荷物入れるだけで楽だし、みんないい人だったし」

【…ヨコはなんて?】

「却下かなー」

【そりゃあかん。ヨコがあかんなら俺もあかん!】

「きみくんが一緒に住む!ってー。シェアハウス行くぐらいなら」

【そ、それもあかん!ヨコはあかん!普通の家ないんかい?】

「あったよ、直ちゃんがちゃんと探してくれてて」

【ほしたらそこ行きや!俺も週末そっち行くから、】

「…信ちゃん今来てよ?今逢いたいよ…」

【むちゃくちゃ言うなや】

「美月が言ってたよ、遠距離なんて絶対無理ですって…今なら少し分かるかも」

【いやお前諦めんな!何最初から弱気なってん!らしくないで、ほんま】



スマホ越しの信ちゃんの声は、普段話すよりも少しだけ高い。

電話の時、人はだいたい低くなるものだけど、営業トークが身に付いている信ちゃんに限って明るく話すからやっぱりちょっとだけ元気が出る。

声聞くと、逢いたさは募るもんだと思う。



「信ちゃん逢いたい」

【…俺も逢いたいけど、仕事やねんで】

「…わかってる。ごめん言ってるだけ、気にしないで。信ちゃんがどんだけ忙しいかちゃんとわかってるから」



それでも逢いたいと思ったから言ったの。

本当の本音は、そこを信ちゃんにわかってもらいたい…



【おう、悪いな。距離と気持ちは別もんや。俺はゆきみと離れても気持ちは変らへんよ】



そこまで言わせた私のワガママも、ちゃんとわかってるから。

ごめんね信ちゃん。

困らせてごめんね。

【家が決まったら連絡しぃ】そう言って信ちゃんは電話をきった。

声なんて聞いたら余計に辛いだけなのかもしれない。

すぐ逢える距離にいるっていうのは、物凄く幸せなことなんだって。

お風呂を出た私を、きみくんが軽く抱き寄せた。

ポンポンって頭を撫でてくれる優しい手。



「しゃあないから、一緒に寝たろか?」

「平気。これくらいでへこたれてたら乗り越えられない…」

「せやな。けど寂しい時は寂しいって言えよな。アイツはそーいうの、なんも言うてくれへんかったから…。女の寂しさわかってあげられんかった悲しい男にさせたくないわ、村上には…」



美月を思い浮かべてそう言うきみくんの声が妙に切なくて胸がちょっとだけ痛い。

思いを言葉にするのは難しい。

大人になればなるほど相手を思って言いたいことも言えなくなってしまう。

信ちゃん私、もう少しワガママでいさせて。






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