ワガママ2
「住む私!あのシェアハウスに住みたい!」
「却下」
バッサリきみくんに斬られて舌うちをした。
そんな私を鼻で笑うきみくん。
直ちゃんは至って真剣な顔で首を横に振る。
「俺も反対。ゆきみさん女の子だし、間違いがあったらダメでしょ。男なんていつどこでスイッチ入るか分かんねぇし…」
ずっと思ってたけど、直ちゃんノリはいいけど、根は真面目だよなぁ。
こーいう人の彼女になったら幸せなれるのかもしれないね。
だけど私には信ちゃんがいる。
「心配しすぎだよ、直ちゃん。間違いが起こったとしたら、それは私が単に受け入れたってだけじゃない?いい大人だよ私。それぐらいの判断はできるって…」
そう言う私をジッと見つめるきみくん。
「そうだけど…」
「ふふふ、でもありがとう。直ちゃんが心配してるのは、岩ちゃんのこと?」
「えっ、俺?なんで?」
急に名前を出された岩田くんな岩ちゃんはキョトンとしていて。
「なんとなく、岩ちゃんを警戒してるように見える」
「いや岩ちゃん手早いからさ。若くてかっこいいし、ゆきみさんも簡単に落ちちゃうんじゃないか?って、確かに思ってる」
「それは忠告ってことでちゃんと受け止める。あ私こう見えて大阪に恋人がいるから!29歳の崖っぷち女だから、遊びの恋愛はする気がありませんので!」
ペコリと頭を下げると「本気やったら大阪の彼氏捨てるん?」しょーたが笑顔で聞いてくる。
「分かんない、そうなってみないと。でも信ちゃんは手強いよ」
「…お前言い出したら聞かへんねんな。村上には俺からも言うとくわ。たく、危なっかしいやつ。村上信五は、西のエースや。顔ちゃうで?仕事がっちゅー意味やで。同期の俺らは最初から一緒やってん。村上にとってこいつはただの女ちゃう、運命や。それ覆すことできるんやったら、やったらええんよ、ヤスも直人も…」
そう言ったきみくんの言葉に、私だけに聞こえるように後ろのエリーが小さく呟いたんだ。
「俺にはできなかったって、そう言いたいのかな、横山くん。もしかして、美月達が別れたのって、それも一理あるんじゃないの?」
思わず振り返ると「あ、その顔はダメ。可愛いからやっぱりチューしたくなっちゃう」…やっぱり照れるエリーのがむしろ可愛いと思うけど、もしもエリーの言ってることが本当なら美月に顔向けなんてできない。
「それはないわよ。だって美月私にあんなに懐いてくれてるもの。知らないうちに傷付けてたなんてこと、自分が許せない…」
「好きだからだよ、美月は、ゆきみちゃんのことも、横山くんのことも。そーいう苦しい気持ちを臣が拭ってくれたんじゃないかなー。俺の勝手な予想だけどね?」
的を得ているような言い方のエリーに、悔しいからやっぱり振り返ってやった。
そしたらチュッてほんの一瞬触れるだけのキス。
「ほらー我慢できない!今のはゆきみちゃんが悪いよ!俺は散々忠告したのに!」
「…うー反省。なるほど、直ちゃんの心配はこーいうことかぁ…」
私とエリーを見て目ん玉ひん向きそうな直ちゃんは、ムスッとして私の腕を掴むとエリーから引き離した。
そのまま自分の隣に連れてきて。
「自覚してよ、ゆきみさん。俺達みんな結構女に飢えてんの。せっかくいい仕事するのに、気まずくなりたくないじゃん?」
スーッと直ちゃんの言葉が胸に落ちた。
おっしゃる通りです、ほんと。
「うん、ごめん。今日はやっぱり美月のとこ行こうかな…」
きみくんを見ると「そうしろ、連絡したる」そう言ってスマホを耳に当てる。
「あかん、電源切っとる。たく、登坂、警戒しすぎや。俺ら終わってんのに」
ちょっとだけイラついた顔で煙草に火をつけるきみくん。
私も正直あんまり詳しく聞いてあげられてなくて。
仕事が軌道に乗った時だったからって言い訳になっちゃうけど、ちゃんと美月の話もっと聞いてあげなきゃだった。
この人こそ、本音なんて口にしないだろうし。
「ねぇきみくん、どうして美月と別れたの?」
私の問いかけに、きみくんの眉毛がピクリとあがった。
―――東京の夜は終わらない。