▼ Destiny4



「登坂広臣……登坂広臣……土田樹里亜……こんな名前クソ喰らえ。土田なんて捨てたい……私は私……。南も東も関係ない、神様……オミさんにもう一度逢わせてください。あの人にもう一度逢いたい……」



どれだけ時間がたったのだろうか。

教会の庭にあるプールに足だけつけてパシャパシャしていると不意に名前を呼ばれた。




「樹里亜」



え?誰?

振り返るとそこにはほんの少し困惑したオミさんがいた。

吃驚したひょうしにそのままバランスを崩してプールに落ちたんだ。

バシャンって、私に続いてオミさんも飛び込んできた。



「どうして?」

「諦められねぇ、樹里亜のこと」



嬉しい。

目の前でずぶ濡れだけど私を見下ろすオミさんは色気たっぷりで、妖艶。

私の肩に手を添えたまま真っ直ぐに見つめてくる熱い瞳。

もしかしたら騙されているかもしれない。

でもそれならそれでもいいって思えた。



「おかしいよね、あんな少しの時間目が合っただけなのに、あれからずっとお前の顔が頭から離れなくて…」

「あ、私も…。また逢いたいって思ってた」

「マジで?すげぇ嬉しい…」



ポンポンって優しく頭を撫でてくれる。



「チームのこととか、全部忘れて今は樹里亜のことだけ考えていたい…」

「オミさん…」



私の唇を指でなぞっているオミさんは緩く呼吸を繰り返していて、ほんのり口端をあげた。

優しい微笑みに吸い込まれそうになりながら、私は近づくオミさんにそっと目を閉じた。

生まれて初めての、キス。

唇が触れ合った瞬間、プールの中でオミさんの手が私の腰に触れる。

引き寄せるオミさんに身体を預ける私。

チュッてリップ音をたてて離れた唇は、すぐにまたくっつく。

挟んだ唇の間から、オミさんがほんの隙間に生暖かい舌を差し込んできた。

なんともいえない感覚に「ンッ…」小さく甘い声が漏れる。



「舌、絡ませて」



耳元でそう言われて、そのまま耳をオミさんの唇に舐められて、ゆっくりと甘噛みされながらオミさんの唇は骨格を舐めてまた唇にたどり着いた。

舌を出すとそれをチュッと吸われて、思わず目を開けたら私を見ていたオミさん。



「えっ」



驚いた声をあげると「ごめん、キス顔ずっと見てた。すげぇ可愛い」…恥ずかしいけど、嬉しくて。



「オミさんだけだよ、こんな顔見せるの」

「俺だけで十分…」



鼻で息を吸うとオミさんのキスが激しくなった。

水の中を2人で歩きながら何度も繰り返される甘いキス。

足りない……全然足りない。

もっと欲しい、もっとオミさんのことが欲しい…

首に腕を回して舌を絡める私を、応えるようにオミさんが強く抱きしめた。

ゆっくりとキスは唇を離れて首筋をくだる。

ピタッと肌にまとわりつく白いワンピースの胸元に何度も唇を落とすオミさんに、「ハァッ」って小さな吐息が漏れていく。



「……俺このままだとここで抱いちゃいそう。さすがにマズイよな。初めてはちゃんとした所で抱きたい…」

「オミさんとなら場所なんてどこだっていいよ、私…」

「可愛いこと言うなって、マジでいろんなもん吹っ飛ぶから。他の女ならそーするけど、お前は特別。適当に扱う気、ねぇから」



嬉しいけど、離れたくない。

ギュッとオミさんの胸板に顔を埋めて腰に腕を回して抱きつく私を大きな腕ですっぽりとおさめてくれる。



「樹里亜、好きだよ」



小さく甘く囁かれて心が温かくなっていく。

顔をあげるとオミさんの優しい瞳に見つめられていて、ドクンと心臓が痛い。



「私も好き」

「ちゃんと考えるから。チームは大事だけど、樹里亜と一緒にいるためにはやらなきゃなんねぇこといっぱいある。俺のこと、信じてくれる?」



頬を指で撫でられて優しく問いかけられた。



「信じる。オミさんのこと信じてる」

「サンキュー。じゃあ今夜はこれで終わり。また明日逢いにくるから、今日と同じ時間にこの場所でいい?」

「うん。待ってる」



プールからあがろうとするオミさんの腕を引っ張ってもう一度キスをせがんだ。



「こら」



そう言いながらもオミさんは私を抱き留めてもう一度私の舌を濃厚に絡めてくれた。

呼吸ができなくなりそうな激しいキスに、身体のいろんな部分が熱く反応する。

好きよ、オミさん。

大好き。





だけど私とオミさんの関係がバレてしまった翌日、勿論ながら兄貴達が黙っているわけもなく、オミさんと逢えるなんてことも、なかったんだ。

まさか、私達の恋がこの地区の無駄な争いを巻き起こすなんて、この時は思いもしなかった。

私はただ、オミさんと一緒にいれたらそれだけでいいって―――




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