▼ Destiny2



とりあえず花火大会のこと2人に言わなきゃって。



「健ちゃん倉庫行って?」

「倉庫?ええけど」



ショッピングモールの駐車場にででんと停めてあったメルセデスに乗り込んでそう言った。

運転手は運転手で別にいて、私と健ちゃんは後部座席に乗り込んだ。



「倉庫行け」



健ちゃんのド低い声に「はい」って一言頷く運転手。

私も健ちゃんもまだ高校生で、この人はきっと年上で。

だけど私達の言う事をすんなり聞き入れるなんて、正直ちょっとおかしいよね?

だけどどこのチームもそれは同じなのかもしれない。

頭がいて、影がいて、幹部がいてって。

チームの人は幹部の言うことは絶対なんだって。



「健ちゃんお腹大丈夫?」

「ああ、すまんかったな」

「うん。アイス食べ損ねたよ」

「腐る程買うてやるわ、そんなん」

「一つでいいって」

「そうか?欲のないやっちゃなぁ、お前」



あるよ、欲ぐらい。

だからね、行かせてほしいの、あの花火大会。







「ダメだ、危険すぎる」



開口一番そう言われた。

倉庫について奥の幹部以上しか入ることの出来ない部屋に入った私が、あの花火大会に行きたい!って言ったんだ。

そしたら案の定、二人とも声を揃えてそんな言葉を放つ。

分かっていたけど、引き下がれない。


だって、もう一度逢いたいんだもん。




「なんでダメなの?」

「なんでもだ。南の地、歩かせるわけには行かねぇだろ」

「でも人が多いから平気だよ?」

「理由になってねぇ。ゆうこと聞かねぇと縛んぞ?」



ニヤッて八重歯を見せて楽しそうに笑うこいつ、私の兄貴の直人。

sevenの影を務める2番手の幹部様。

影は頭の影って意味で、いつなんどきも身代わりになることになっている。

例えば警察に追われている時とか、頭のフリしてそこを乱していったりもする。

じつは一番危ないポジションにいるんじゃないかって。



「健二郎、樹里亜になんかあったの?」



そう聞いたのはseven頭の哲也。

こちらも私の兄貴、長男の哲也。

物心ついた時から私はこの2人に育てられてきたといっても過言じゃないぐらいお世話になっている。

暴走族の幹部だけど、私に対しては至って普通で。

私がsevenの幹部の妹だから、毎日健ちゃんの護衛がついているんだ。

敵対している雷翔-light-から守るために。



「いやなんもないと思います」

「本当だろうな?」



哲也に睨まれて健ちゃんの顔色がさっきよりも青白くなっている。

直人は私よりも彼女のゆきみさんに夢中で、今もずっとLINEを開いて会話をしている様子。

もっぱら私はいつも哲也の監視下にいるんだ。



「ほんまです、ほんまに」

「とにかく、花火大会は絶対に行かせねぇ」



哲也に言われてムカッとする。

なんでそんなの兄貴に指図されないといけないの?

そんなに危険なの?



「守る自信がないんだ?てっちゃん」



悔しいからそう言ったら眉毛をピクリと片方だけあげて私をジロリと睨みつけた。

一人がゆったりと座れる大きな黒いソファー。

そこに堂々と座っていいのはこのチームの頭だけで。

言うなれば直人でさえ座ることを許されない。

しいてゆうのなら、哲也の彼女ぐらいは許されるかもしれないけど。

まぁ、いないけど、哲也には。

大股開いてふんぞり返っている哲也が身を前に出して威嚇する姿は物凄く怖い。

我が兄貴ながら冷や汗が出そうで。



「なんだと?」



あくまで静かな口調で聞き返された。

だから何となく健ちゃんの腕を掴んで健ちゃんの影に隠れるようにしたけど。



「だから、南で何かあって守る自信がないんでしょっ?だから行っちゃダメなんでしょ?」



ギュッと健ちゃんにもはや半分抱きつきながらそう言うと、至近距離で健ちゃんが小さく息を吐き出した。



「言うね、樹里亜。いーよ、行けよ?その代わり健二郎も一緒だかんな?」



面白おかしいって顔で直人がそう言う。

哲也は苦虫潰したような顔で「ELLYもつける」そう付け足した。



「やった!直ちゃんありがと!」

「気をつけろよ、雷翔のかんかつだから下手なことできねぇぞ?」

「何もしないよ、花火が見たいだけだもん」



もう一度、逢えるかな?

確か、オミさん。

それだけを胸に私は花火大会までを楽しみにしていたんだ。


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