▼ 雷翔のやり方2
だけど、それに気づいたんだろうか、直人がまさかのゆきみさんを自分の後ろに隠して。
…悔しい。
直人がいるとまともに話ができない。
言ってやりたい、ゆきみさん、なんでこんなのと付き合ってんの?って。
「直人、樹里亜が可哀想よ、そんな態度とったら…ほんと、不器用なんだから…」
柔らかいゆきみさんの声が聞こえて、直人の眉毛が下がった。
確実に直人の弱点をつくならここだ。
ゆきみさんにだけは、直人は勝てない。
それが惚れた弱味だというのなら、それはそれで羨ましいものがある。
だから余計に怖いんだ―――守る女を傍に置かない哲也の方が。
「黙っとけよゆきみ、たのむから」
「だって樹里亜が私に助けを求めてるもの!ね?」
直人の後ろからひょこっと顔を出すゆきみさんに、コクコクっと大きく頷いた。
そのままゆきみさんは広臣をジッと見つめる。
「本気で樹里亜を守れるの?彼氏…」
それは広臣宛の言葉で。
だから広臣も「守るよ、本気で惚れてる」迷うことなくそう答えてくれる広臣が愛おしい。
だけど、世の中はうまくいかない。
バタバタと表が騒がしく音をたてていて、コンコンって音がして「哲也さん、ちょっと面倒なことが起こってます…」健ちゃんの声にドアが開いた。
中にいる私と広臣を見て健ちゃんが吃驚した顔をする。
なんなら広臣を威嚇するように睨みつけた。
こんな健ちゃん見たくないのに。
「どーしたの?健二郎?」
「…女がどんどん雷翔に寝盗られてて…」
「なるほど、そうきたか。幹部の奴ら使って精神的に追い込むってわけねぇ。力じゃ直人に敵わないからねぇ…―――どーしてくれんの、登坂?」
ダンっと足を大きく開いて顔を上げた哲也のド低いドスのきいた声にビクリと妹ながら震えた。
だけど広臣は驚きもせずに哲也を見ていて。
「勝手に惚れたんだろ、女達が…」
「てめぇ、なめやがって!」
直人が勢いよく立ち上がったから私が広臣の腕を掴んで前に出ようとしたけど、それに気づいた広臣はすぐに私を後ろに隠した。
この人は本気で私を危険から守ってくれるんだって、実感する。
「広臣のせいじゃない!どうして認めてくれないの?」
「どうしても認めらんないよ、樹里亜。もう出ていけ。言っとくけど、先にやったの俺らじゃなくて、そっちだからね?」
ニコリと微笑む哲也の顔が怖い。
それから健ちゃんに視線をずらして「連れてけ」…そう言うと、健ちゃんが私を抱えようとして…
「触んなっ、俺の女にっ!また来るからっ!」
そう言って広臣は、私の肩に腕をかけてこの倉庫から出て行く。
慌てて健ちゃんが着いてきた。
「樹里亜、待てや、おい」
「健ちゃんお願い、ほっといて、私達のこと」
「無理や。ほおっておけるか、ボケ。安心しい、ここで登坂に突っかかったりせぇへんよ」
いつもの健ちゃんに泣きそうになった。
広臣が一緒にいるだけで、みんなが私を敵扱いするから、健ちゃんまでそうだったら悲しいって思ってて。
広臣も私がいる手前、健ちゃんに手を出すことはないって思うけど、やっぱり争ってなんかほしくはない。
「うん、ありがと」
私の言葉に軽く健ちゃんが微笑んだ。
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