▼ 彼の本気2
誰に聞いても知らなくて…
哲也に口止めされているとしか思えなかった。
「樹里亜、ちょっと来い」
顔を上げるとそこには走ってきたのか息を切らした健ちゃんがいて。
私の腕を掴むと、バイクに乗せた。
そのまま海道を走って小さなアパートの少し手前で止まった。
「あの角部屋かもしれへん。見てみ、見張りつけとるやろ…」
健ちゃんの指さす方にはうちのチームの奴なのか知らない男が二人いて。
このアパートの入口を陣取っていた。
あの部屋にオミさんがいる?
「どうやって入ったらいいの?」
「まだ入られへん。見張りが一人になったら俺がやるからその隙に樹里亜は入ったらええよ」
「…分かった。よく分かったね、健ちゃん」
「まぁお前の為や。一応俺もそこそこ動けんねんで?」
「うん、ありがとう」
ニッコリ微笑んだ次の瞬間、このアパートにバイクが数台入ってきた。
見覚えのあるそのバイクはそう…――「兄貴…」哲也と直人が揃って登場したことで、ここにオミさんがいるのが確信に変わる。
煙草を吸いながら階段を上がった先、角っこの部屋を開けると怒鳴り声が聞こえた。
「あ、オミさん…」
「待て樹里亜、まだ行くな。まだあかん」
そう健ちゃんが言うけど、そこにオミさんがいるのが分かった今、待ってなんかいられない。
だから「ごめんね健ちゃん」そう言うと、私はここから走ってアパートの二階へ階段を駆け上がった。
「あっ、樹里亜さん!?」
見張りの声に入口側にいたであろう直人が振り返った。
眉毛を片方だけあげて思いっきり睨まれて「それ以上入ってきたらぶん殴んぞ?」威嚇された…。
「黙れ!オミさん出してよ、そこにいるのは分かってんのよ!」
私の言葉にチッて舌うちの後、後ろを見つめて「健二郎か、あの野郎」って言葉。
健ちゃんごめん!って思いながらも直人から目を逸らすまいとジロっと睨み返してやったら「樹里亜…」聞こえたオミさんの声に一気に意識がぶっ飛んだ。
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