行方知らずな気持ち1


片岡さんの運転する車の後部座席でボーッと外の景色を眺めていた。



「先輩、ごめんなさい…」

「え?美月ちゃん?」

「なんであたし、空港なんて行っちゃったんだろ。ゆき乃先輩は、知ってたんですよね?だから家で待ってろって…」

「そうね。ほんと馬鹿。…でも分かる。それでも行きたい美月ちゃんの気持ちも、分かっちゃう」



泣いても泣いても枯れない涙がまた頬を伝う。

いつもは煩いぐらいえみ先輩贔屓な岩田も無言で窓の外を見ていた。

あんなに最悪なもの見ちゃったのに、それでもあたしの心はテツを求めているなんて。

こんなになってでもまだ、テツに逢いたいと願ってしまうなんて。



みんなでシェアハウスに帰ると、そこに電気も付けずにゆき乃先輩がポツンと佇んでいた。

ふわふわのお洒落な格好と綺麗なメイク。



「ゆき乃?どうしたの?なんかあった?」



慌ててえみ先輩がゆき乃先輩に近寄ってその腕を掴んだ。

パッと顔をあげたゆき乃先輩は掴まれたことで気づいたみたいな顔で。

後ろにいたあたしやみんなの顔を見て泣きそうな顔で「ただいま」そう言ったんだ。



「おいどうした?」



えみ先輩の後ろ、片岡さんが心配そうにしゃがんでゆき乃先輩の膝に乗った腕を包み込む。



「な、お、と…。なんでいるの?」

「…美月ちゃん迎えに行った」

「え、美月?」



ボロボロなあたしを見てゆき乃先輩は困った顔。

それからえみ先輩を見つめて小さく息を吐き出す。



「哲也くんと会ったの?」

「いえ。見ただけです」



あたしの言葉に顔を歪めたゆき乃先輩。



「馬鹿だな美月」



そう言うとポロリと涙を零した。

えっ!?

吃驚して。

あたしだけじゃなくてみんな吃驚する中、えみ先輩だけは冷静で。



「ゆき乃、隆二呼ぶ?」



優しくそう聞いたんだ。

でもゆき乃先輩は首を横に振ると、そのまま片岡さんの首に腕をかけて倒れ込むように抱きついた。



「直人くん、お願い」

「ああ」



えみ先輩に優しく微笑むと、片岡さんはゆき乃先輩を抱き抱えて先輩の部屋に入って行った。



[ - 72 - ]
prev / next
[▲TOP