あたしって、何処まで馬鹿なんだろ。
MOAIの店長に言われた言葉を理解していながらも、足は空港に向かっていた。
何時の便とか、何も知らないのに、空港でテツに逢えるんじゃないかってそんな呆れたことを思ってしまうんだ。
もしも奥さんと一緒だったら?
お子さんも一緒だったら?
あたしのことを隠す理由として、わざと奥さん連れていってるって、嘘をついたのかもしれない。
それが円満で幸せな家庭に見せる為に。
テツの愛は偽物なんかじゃない。
あたしが一番よく分かっている。
「美月ちゃん?今日休みだったんだ!」
今日はよく人に会うなぁ。
あたしを見て軽く手をあげて近寄ってくるのはゆき乃先輩を一途に愛してる片岡さん。
「片岡さんもお休みですか?」
「うん。なんか落ちつかなくて…。こんなんならシフト入れときゃよかったけど」
八重歯を見せてハニカム片岡さんの言葉にあたしは微笑む。
「ゆき乃先輩が心配?」
「心配はないよ。けど、落ち着かねぇ。うまくいけばいいけど、正直フラれて欲しい」
「素直ですね」
「まぁ、もう失うもんねぇし」
「…すごいなぁ。あたしは片岡さんみたいに強くなれないです。羨ましい」
「え?恋バナ?そういや美月ちゃんのそーいうの聞いたことないね」
ニコッと微笑む片岡さんにドクンと心臓が脈打つ。
テツのこと、言えたらいいのに。
ゆき乃先輩やえみ先輩が受け入れてくれたからって、片岡さんまで受け入れてくれるとは限らないし。
でも一人で抱えてるのって、苦しい。
だけどやっぱり言えない。
簡単に話せる恋なら、苦しくなんてないよね。
「あたしは仕事が恋人でーす!」
「そうなの?広臣かと思ってたけど。あ、美月ちゃんがじゃなくて、あれは広臣が、か…」
一人納得する片岡さんだけど、何の話?
苦笑いするあたしの頭をポスっと撫でる片岡さんは、本当によく笑うようになっていた。
「トサカは関係ないですよー」
「なんで?嫌い?」
「嫌いじゃないですけど別にそーいう風に見たことないし。あたしもっと大人な男が理想です!ガキくさいトサカはタイプじゃありません!」
「ハッキリ言うね」
ちょっとだけ肩を竦めた片岡さんは、時計を見て「やべ、時間だ」そう言ってあたしに視線を移す。
「落ちつかないから敬浩くんとこ予約しちゃって。ごめんな美月ちゃん、またね!」
「はい!また!」
ブンブン手を振る片岡さんは、帰ってくるのかすら分からないゆき乃先輩を一晩中待っているのかもしれない。
それにしても、トサカとかないわー。
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