「あ、これ可愛い!」
チップとデールのマグカップを手にしてニンマリ。
山下さんのお店とはかけ離れたここ、ディズニーストア。
隣のトサカが眉間にしわを寄せてそれでもちゃんとついては来てくれている。
「らしいっちゃらしいけど…」
「だって!これがあたしは好きなんだもん…」
「お前に似てるから?」
「はいっ?殴られたい?」
「ブッ、冗談だろ。お前のパンチなんて痛くも痒くもねぇわ…」
ムカついてトサカの腹筋に肘鉄を食らわせた。
ブハッて息を吐き出すトサカにニンマリ。
あたしを怒らせたバツよ。
「お前な…もっと優しく扱えよ?」
「別にトサカに優しくしても何のメリットもない」
「メリット目当てに生きてるわけ?寂しい奴だな…」
寂しい?
あたし、寂しそうに見える?
無性に腹が立った。
大きく息を吐きだしてギロっとトサカを睨みつけた瞬間「あれ?美月ちゃん?今日お休みじゃなかったの?」…―――聞こえた声に胸がトクンっと高鳴った。
「…土田さん」
「どうも!バイヤーの土田です」
言ったのはトサカにで。
ペコっとトサカが土田さんに頭を下げた。
「土田さんお店来られました?あたし引っ越し途中でして…」
「引っ越し?美月ちゃんが?」
「はい」
「ここって確か社員寮だったよね?」
「はい。…なかなか独りで眠れない夜が多くて…」
あたしの言葉に土田さんは苦笑い一つせずに涼しい顔で「美月ちゃん独りで眠らせるなんて間違った世の中だねぇ」なんて言うんだ。
ジッと見つめるあたしに優しく微笑んでトサカに視線を移す。
「いや困ります。そこで俺にフラれても…こいつはただの同期なんで」
「あたしだってお断りだよ、こんなガキ!」
ベーッて舌を出すと、思いっきり舌打ちされた。
「お前、本気にさせてやろうか?俺がいないと生きていけねぇぐらい惚れさせてやろうか?」
真剣にあたしに迫るトサカに1ミリも気持ちが動くことなんてなくて。
だってここにいるのは…―――「土田さんこそ責任持って下さいよ、その言葉に!」投げつけるトサカの言葉に土田さんはニッコリ微笑んで左手薬指を見せる。
「俺奥さんと子供いるの!これでも愛してるんだ、奥さんと子供のこと」
「ふうん。まぁ売れ残ってる人ほど何かあるって言いますもんね…」
「売れ残りだなんて!俺達男の見る目がないんだよ、ね?美月ちゃん!」
土田さんの言葉があたしの頭をグルグル回ってる。
笑ってるのか、笑えてるのか分かんないくらいのあたしの引き攣った顔をトサカに気づかれないように髪で隠した。
―――これでも愛してるんだ、奥さんと子供のこと。
嘘つき。
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