崩れた壁1


「さすがに遅いなぁゆき乃…」



時計の針は間もなく0時を回る。

勿論ながら門限なんてないけど、日付が変わる前にはいつも帰ってくるわけで。

それを超える場合はえみ先輩なりに連絡が入ってるんだけど。



「ですよね。あたしちょっと見てきます!」

「バカヤロ、行くなら俺が行く。さすがにこんな時間に女1人で外出せねぇ。つーかグループLINEで連絡とればいんじゃねえ?誰かしらゆき乃さん見たなら連絡よこすだろ」

「うん」



岩田に言われてあたしはチームMOAIのグループLINEでゆき乃先輩の所在を訪ねた。

ポンってすぐに帰ってきたのは今市隆二くん。

続いて山下さん。

どっちも同じように探していたのか、



「……見てないか。ゆき乃先輩どうしちゃったの?」

「岩ちゃんやっぱり外見てきて?」



えみ先輩が心配そうにそう言うと岩田はスマホを片手に「分かった」そう言って玄関へと行く。

着いていくあたしとえみ先輩だけど、不意に岩田が振り返ってえみ先輩の腕を掴んで抱きしめた。

そのまま迷うことなくあたしの前で堂々とキスをして……

わーわーわー!!

思わず手の平で目隠しするけど、甘い音が響いてドキドキする。



「連れて帰ってくるからいい子で待っててね?」



ポンポンってえみ先輩の頭を撫でる岩田は、普段誰にも見せたことのないであろう、甘くて優しい表情で。

接客の時の営業スマイルとは遥かに違うその表情にほんの1ミリ程度ドキッとした。

あの笑顔を毎日見せられたらちょっと危ないよね。



「いんですか?えみ先輩も一緒に行かなくて?」



見送ったあたし達はリビングに戻ってとりあえず待機。



「だってすれ違いでゆき乃が戻ってきたら嫌よ。今回の隆二の件でそうとう言われてちゃってるの、もうちょっと気にしてあげなきゃダメだったわ私も。あー長く一緒に住んでるのに情けない…」



ソファーにグダーって寄り掛かるえみ先輩はクッションをギュッと抱きしめてすごく可愛い。

綺麗だけどこーいう一面は可愛くて、そんなところも岩田は好きなんだろうなって思えた。



「素敵です、お2人の友情」

「あら!美月ちゃんだって同じよ?いなくなったらみんなで探すからね!せっかく2人きりだから色々聞かせてよ?哲也くんとのこーと!」



艶っぽく微笑んだえみ先輩に、やっぱり何だか分からないドキドキがあたしの胸を過ぎった。



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