ゆき乃先輩が残した残骸をパクつく片岡さん。
「あの、片岡さん…」
「んー?」
「好き、ですよね?」
「……―――――え?」
キョトンとあたしを見つめるつぶらな目にハッとして首を振った。
「いえあの、あたしじゃなくて、ゆき乃先輩のことです!」
あたしの言葉に片岡さんは目を逸らした。
だけど逆にトサカが目を大きく見開いて。
「え、直人さんマジッすかっ!?」
まるで知らなかったって声を出した。
片岡さんはそんなトサカに苦笑いを零して。
それから真っ直ぐにあたしに視線を移した。
「ガキみたいでしょ?俺…」
やっぱり。
自嘲的に微笑む片岡さんは切ない。
きっと一番傍にいるのに、ゆき乃先輩は片岡さんの気持ちに気づいていなくて。
それがもどかしい。
やだあたし、ゆき乃先輩の相手は片岡さんがいい。
本命の黒沢さんのことも、今まで一緒にいた山下さんでも、ゆき乃先輩にベッタリな今市隆二くんのことも忘れてそう思った。
ここにいる片岡さんがいい。
「なんで、ですか?この前だって黒沢さんが来てるのわざわざゆき乃先輩に伝えに来ましたよね?なんでそんなこと…」
思わず彼の腕を掴んで前のめりになってるあたし。
黙ってあたし達を見ているトサカ。
「アイツ、昔はあんなんじゃなかったんだ。俺のせいなの、アイツがあんな擦れた性格になったのは…」
一度天井を向いて小さく息を吐き出す片岡さん。
喉仏が綺麗にあたしに映る。
「出逢った頃のゆき乃は今の美月ちゃんみたいに素直で可愛かった。俺達4人同期でお前らみたいにそれなりに仲も良くて、よくみんなで仕事帰りに飲んでた。でも俺その時付き合ってた子がいて、その子がやたらとゆき乃を意識していて、俺の知らない所で嫌がらせ受けてたの。ある時それが爆発して……片岡のことなんてこれっぽっちも何とも思ってない!って、俺を無視するようになって……。何度謝っても許してくれなくて、俺もガキみたいにむきになって。勿論その子とは別れたし、この際嫌われてもいいから俺はゆき乃を見守るって決めて……ずっと見てたら好きになってた。まぁ今更そんなこと言えねぇけど……」
「は、お前なに泣いてんだ?泣き上戸かよ?」
トサカがあたしの頬を指で何度も拭う。
だってなんか切ない。
もしかしたらゆき乃先輩は心のどこかで片岡さんのことを想っていても不思議じゃない。
「うー。ばかー片岡さんばかー。ゆき乃先輩可哀想……」
もう涙なんて止まんなくて。
でも全部トサカの指に吸い込まれていく。
「あー面倒くせえ!」
そんな声と共にトサカの腕が背中に回って顔をTシャツに埋め込まれた。
ポンポンって優しく背中を撫でてくれるから、あたしは遠慮せずにトサカのシャツに涙の跡をつけた。
「最初は仕事に一生懸命だったゆき乃が、俺のせいで男遊びするようになって、そんな時にお前らが入社してきた。すぐに隆二とそーいう関係になって、でも本命は黒沢。でも見守る隊の俺は、ゆき乃の笑顔が見たいわけよ。こんなんでも、感情はあって、結局どんなに強がったところで俺の気持ちはゆき乃以外に向いてくれねぇ……ほんとクソガキだろ」
「直人さんそれ自惚れすぎてません?ゆき乃さんがあーなったのは、直人さんのせいだけじゃないんじゃないですか?」
トサカうるさい!
そう言いたいけど嗚咽を繰り返すあたしは言葉なんて出てこなくて。
「いんだよ、俺がそう思ってたいの。はぁー……健二郎ともかよ、たく。マジで勘弁してよ…」
グダーてテーブルに身体を投げ出す片岡さんにあたしはトサカから離れた。
「取り戻しましょう!ゆき乃先輩のこと!あたしが協力します!」
「え?でも」
「だめです、幸せになってくれないと……」
あたしとテツのこと味方だって言ってくれたのは、ゆき乃先輩とえみ先輩だけだもの。
2人が幸せになる為だったらあたし、何を敵にしたって構わない。
どんなことも乗り越えてみせる!
「……サンキュー美月ちゃん」
嬉しそうに笑う片岡さんが印象的だった。
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