「哲也くんが来てからりゅーじ呼ぼうかなぁ。えみは?岩ちゃん呼ぶ?」
「うん。一人じゃ眠れない…」
「もう1杯飲む?」
「うん。飲む!」
何だか先輩2人の会話もあまり耳に入らなくて。
間もなくテツがここにやってくると思うとソワソワしてなからなかった。
ピンポン。
聞こえた呼び鈴にビクッと肩を震わせる。
「美月出て!一応覗き穴確認してね?」
「…はい」
ソファーから立ち上がったあたしは、緊張のあまりソファーの橋に引っ掛かってドスッと尻もちをついた。
「大丈夫っ!?」
慌ててえみ先輩があたしを起こしてくれる。
ふわりと甘い香りがしてドキッとした。
「す、すいません」
「ほら行っておいで!」
背中を押されて玄関へと急いだ。
覗き穴の向こう、ほんのり口端のあがったテツがそこに立っていて。
嬉しそうな表情にあたしまで嬉しくなる。
鍵を解除してドアを開けると目の前のテツがあたしに優しく微笑んだんだ。
「こんばんは、美月ちゃん」
「こんばんは。すいませんお食事中のところ…」
「いーよ。ここが美月ちゃん達の家?」
視線をグルリと回して確認しているのはセキュリティなのか防犯なのか?
「しっかりしてるし、大丈夫そうだね、俺も安心」
「テツ…逢いたかった…」
逢えた喜びと安心感でテツの腕を引き寄せて玄関の中に入れてからぎゅっと抱きつく。
「俺も逢いたかったよ、美月」
甘い高音があたしの後頭部から聞こえる。
安心できるテツの温もりにあたしは更にぎゅっと抱きついた。
「いらっしゃい、哲也くん!」
だけど聞こえた声に慌てて離れる。
「あ、いやこれは、その…」
珍しく動揺しているテツだけど「全部聞いてるわよ、美月から!安心して口外しないし何があってもわたし達は美月の味方だから!」ゆき乃先輩の声にテツが驚いた顔であたしを見る。
「だけど哲也くん一つだけ約束!」
言ったのはえみ先輩。
テツは真剣にえみ先輩を見返していて。
「美月ちゃんを傷つけたら許さない。その覚悟があるならこの家使っていいわよ!」
「分かってます。美月は俺の大事な人だから何があっても守ります」
初めて聞くテツの本音に、身体も心も高揚していくのがわかった。
そんな言葉貰えるなんて思ってもみなくて。
また泣きそうだよ。
「合格!ようこそ、シェアハウスへ!」
両手を左右に広げてテツを歓迎してくれる先輩2人にやっぱりあたしは泣いてしまった。
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