【side 美月】
ご機嫌で戻ってきたゆき乃先輩。
黒沢さんと何かあったんだろうか?
色々聞きたい気持ちを抑えてあたし達は三人でシェアハウスに帰った。
昨日が賑やかだったからか、今日は少し静かで。
とりあえず先輩二人がシャワーしている間にせかせかと夕飯の準備。
昨日いっぱい食材を買いだめしておいてよかった!
先輩達のリクエストを聞きながらあたしは心をこめて作った。
「美月もシャワーどーぞ」
ゆき乃先輩がノーブラなのにペラペラの布キレみたいなダボシャツ一枚で出てきて。
その姿に思わずカアーっと赤面。
ここに山下さんがいたら大変だ!なんて思いながらもあたしは「ではシャワーいただきまっす」元気よく言ってチャッチャと汚れを洗い落としに行った。
一通り終えてリビングに顔を出すと、既に宴は始まっていて…
「あ、美月ちゃん、ごめんね。お腹空いて先に食べちゃった!これすっごい美味しい」
えみ先輩がシャンパン片手に生ハムを手でパクついている。
何ともエロイそのいでたちに「おかまいなく」そう答えるのが精一杯で。
ソファーに座ったあたしの前、えみ先輩の手でシャンパンがグラスに注がれた。
「では、改めして、三人の出会いとこれからに…カンパイ!!!」
カチンっとグラス音が響き渡った瞬間、何でか嬉しくて泣きそうになったなんて。
だけどあたしのそんな温い考えは甘かった―――
「どうやって哲也くんを落としたの?」
「哲也くんってえっちの時どんな感じなの?」
「腹筋割れてる?」
「二人きりの時はなんて呼んでるの?」
質問攻めにあった。
全部がテツとのことで。
「あ、それなら私知ってるわよ。”テツ”って呼んでるよね〜美月ちゃん!」
えみ先輩が鳥の刺身をこれまた手掴みで口に運ぶ仕草が何ともエロイ。
隣のゆき乃先輩が呼び方に大興奮してケラケラ笑っている。
「わたしも呼びたい、テツゥ〜って。仕事中は原田さんって言ってたような?気がするけどねぇ」
「あの、先輩…」
あたしの呼びかけに二人とも視線をくれる。
ずっと気になっていたことがある。
世間じゃ許されないこの恋。
どんなにあたし達が愛し合っていても、それが表に出たら非難されるのは当然で。
「あたし、その…―――ふ、不倫なんです…」
いざ、口にすると声が震えちゃって。
悪いことしているって意識は持っているけど、それでも諦められないって気持ちが心の中で押し比べをしていて。
自分じゃどうにもできない。
別れることも、別れてもらうことも。
こんなのやっぱり許されないって思うけど…
「だからなに?」
キョトンと首を傾げる先輩二人。
「怒らないんですか?」
震える声でそう聞いた。
そんなあたしに対してやっぱり不思議そうな顔をしている。
「えっ、美月もしかしてわたしのハーゲンダッツ食べたのっ!?ゆき乃って書くの忘れちゃったのはわたしだけどさぁ、あれ食べるの楽しみにしてたから今すぐ買ってきてよ!」
まるでとんちんかんなことを言うゆき乃先輩にちょっとだけ気分が逸れた。
「ち、ちがいます…。食べてません!」
「あら。じゃあ怒ってないよ」
「なぁに、美月ちゃん?」
もしもあたしだったら「今すぐ別れろ!」って言うと思う。
だから先輩たちも「別れなさい」って言うんじゃないかって勝手に思っていた。
「奥さんもお子さんもいる人と付き合ってるあたしのこと、軽蔑してませんか?」
すごく緊張していた。
イエスと言われても仕方のないことで。
「してないわよ、それぐらいで」
「そうそう、美月見てたらどれだけ哲也くんのこと好きかなんて分かったもの」
まさかそんな風に言われるなんて思いもせず、今日までずっと一人で抱えてきたものが溢れだしそうになる。
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