24時間は長い。
いや、短い?
テツに逢おうと思っていたあたしを止めたのはえみ先輩とゆき乃先輩。
あんなにバッタバタな朝を迎えたのは久しぶりだった。
余裕をもって起きたはずなので、リビングで優雅に朝食をとっていたら、時計の針はあっという間に進んでいて、やばい化粧してない!とか、着替えなきゃ!とか色々だった。
靴屋のあたしは言っちゃえば私服出勤で。
お客様の前でだらしない格好は望まれないのもあって、それなりの格好で出勤しなきゃいけない。
制服に着替える先輩二人はいいな〜って思っていたものの、それでもやっぱり私服はお洒落で、今度買い物に着いて行こうと意気込んだんだった。
相変わらずホットパンツなゆき乃先輩と、カジュアルにジーンズを着こなすえみ先輩。
どっちもあたしには似合わなそうだけど、あんな格好してみたい…。
夕方になって「こんにちは」聞こえた声に顔を上げるとそこには相変わらずこれまたお洒落なテツが立っていた。
昨日ぶりなのに、こんなにも胸がドキンっとするのはテツだけだよ。
「あ、こんにちは」
「マツさんは?」
「あ、店長は在庫整理で裏にいるはずです」
「あれ?今見たけどいなかったよ〜」
「…また煙草!?さっき行ったばっかなのに!もう、土田さんからも言ってください!店長煙草長いし、インターバル少ないって!」
「でも今俺達二人きりじゃん」
スッとテツの手があたしの髪に触れた。
運よく今はお客様がこの近辺にはいなくて。
だから店長もサボリに行ってるんだって思う。
「今夜逢える?」
テツの手がゆっくりと離れて耳元に落ちた甘い声。
ドクンっと胸が音を立てた。
イエスと首を縦に振りたい気持ちが今なら勝てる。
先輩二人に「ごめんなさい」って謝ればいいよね?
「は…「美月〜」聞こえた声はゆき乃先輩。
え?制服の上にカーディガンを羽織って休憩中なのかあたしを呼んだ。
「あ、哲也くぅん。何しに来たの?」
「…ちょっと気になる在庫があって。来週イタリアで買い付けてこようと思うものもあるから店長とその打ち合わせも兼ねて」
サラリとそう言うテツにまた胸がドクンっと動く。
来週イタリア?
チラっとテツを見るけど、本当なのか嘘なのか分からない。
「イタリア行くの?わたし欲しいバックがあるの!買ってきて?」
「いいよ〜。LINEしてよ?」
「OK!りゅーじんとこ行ってくる。あ、美月今夜の約束絶対だから!」
ニッコリ微笑むと「哲也くんまたね」手を振って去って行った。
「あの…イタリア行かれるんですか?」
「うん。仕事でね。原田さんもお土産何か欲しいものあったら買ってくるから連絡して?」
「…あたしは大丈夫です…」
「今夜は無理か…。明日からこっち来れないからイタリアから戻ったらまた顔出すね」
ポンポンってテツの温もりが頭に落ちる。
やだ、行かないで。
テツに抱きしめて貰わないとあたし頑張れないよ。
そんなこと言えないけど。
「…ごめんなさい」
「いいよ全然。ゆき乃さんもえみさんも原田さんのことちゃんと可愛がってくれるだろうから俺は逆に安心…―――ちょっと寂しいけどね」
テツの気持ちが嬉しくて泣きそうになった。
あたしだけが寂しいって思ったら悲しいじゃん。
今夜抱き合いたかったって気持ちが一緒だったことは単純に嬉しい。
「あれ、ツッチー!早いじゃない?」
松本店長の声に、二人で振り返ったんだ。
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