行方知らずな片恋1


「なにボーッとしてんのよ、美月!」



黒沢バイヤー達から離れて水槽の魚を眺めているとシャンパンを持ったゆき乃先輩と、隣にはワイン片手にえみ先輩。

ゆき乃先輩はもう顔が少し赤くて。

あ、そういや引越し祝の途中だった。

黒沢さんがいたからついあの日のことを思い出しちゃったよ。



「いいんですか?本命のバイヤーは?」



ゆき乃先輩にそう聞くとニコッと微笑んだ。



「えー分かるー?良平くんが本命だってぇ!」



頬に両手を添えて恥ずかしさを演出しているのだろうか?……可愛い。

女のあたしでも可愛いと思うのに、男の目にはもっと可愛く映るだろうな、ゆき乃先輩。

ぶりっ子してもイヤミがないとかすごい。



「さすがに分かります。あ、でも……聞いてもいいですか?」



あたしの問いかけにえみ先輩と2人「なに?」声を揃えてそう言う。

キョロキョロと辺りを見回してあたしは先輩2人に一歩詰め寄った。



「い、い、今市隆二くんとは、その……セセセセフレって?」



言うのにこんなに恥ずかしい言葉があるんだって。

普段使うことのない単語は疲れる。



「りゅーじ?ああうん。だって1人で寝るの寂しいじゃん!りゅーじエッチうまいよ?美月にも貸そうか?」



なんてことないって言い方だった。

後腐れ無しの関係だからこそ、そんな風に言えるものなんだろうか?

あたしには分からないけど。


て、ゆーか、貸す?

借りれるの?あの人!!

レンタルボーイ?

TSUTAYAとかでも借りれるわけ!?



「岩ちゃんでもいいよ」



口をパクパクしているあたしの肩に手をかけめえみ先輩が耳元で言う。

岩田までレンタル可能!?



「てゆーかさ、どうしても美月ちゃんの相手だけわっかんないんだよね〜。岩ちゃんが口割らなくてちょっと私切なくなっちゃったもん…」

「そうそう、えみの色仕掛けにも動じない岩ちゃん、ある意味かっこいいよね!わたしも試したかったなぁ〜」

「隆二はヤキモチ妬きだからね」

「え?ふふ。りゅーじすっごい可愛いから、そーいう時。チュー口でもごもご言われたらもういいや!ってなっちゃう」



待て待て待て!!!



「先輩っ!!」



ちょっとだけ声を張ったあたしに対して視線を集めたけど。

だって、二人の会話に全然ついていけない。




「あの、あたしの相手って…」




思いきって聞いたあたしにとんでもない言葉が投げられたんだ。





「ああ、美月ちゃんの付き合ってる奴ね。いるでしょ?あ、美月ちゃんのこと全部調べてあるから、隠し事は無しよ!」



えみ先輩…探偵っすか?

調べてあるっていったい…



「一緒に住むんだもん。得体のしれない奴はお断り!でも聞いたらりゅーじ達の同期だっていうし、みんな美月のこと知ってたから安心した。それで、美月の男の名前だけ分かんなくてさ。でも考えたんだけど…岩ちゃんが言わないのは、言わないんじゃなくて…―――言えない相手なんじゃないかって?ね、えみ!」

「そうそう、そう考えると絞られちゃうよね」



心臓がバクバクいってる。

テツと抱きあうのとは違う心拍数の上昇に無駄に背中を汗がつたう。



「美月って靴屋だよね?マツ先輩んとこの…あそこのバイヤーってさぁ…」

「「哲也くんっ!!」」



被った、むしろ、ハモった!

ゆき乃先輩とえみ先輩の声に、あたしはもう隠しきれないって思った。

そして本当は誰かに止めて貰いたかったのかもしれない。

小さく頷いたら涙が出た。

誰かに言えた嬉しさなのか、これでテツから解放されるかもしれない…って思ったんだ。



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