【side えみ】
やば、緊張してきた。
大輔先輩と二人きりとかいつぶり?
大学時代を思い出してほんの少し微笑む。
あの頃は大輔先輩モテたから密かにみんなで取り合いだったなぁ。
でも結局は希帆ちゃんにもってかれちゃったけど。
「えみちゃんお待たせ。ごめんね、遅れて」
ポンと背中を叩かれて振り返ると大輔先輩。
今夜で大輔先輩への片思いも、終わりか。
「いえ全然です!」
お洒落なバーでお酒を頼んで乾杯。
暗い照明のせいか、いつも以上に大人で素敵に見える大輔先輩。
その顔を見ているとやっぱり好きな気持ちが溢れてしまう。
「じつは、希帆のことなんだけど…」
希帆?希帆ちゃん?
てっきり私の気持ちが大輔先輩にバレているものかと思っていたせいか、拍子抜けしてしまう。
キョトンと大輔先輩を見つめる私に、困ったような大輔先輩の顔。
「あ、はい。希帆ちゃんがどうかされましたか?」
「最近様子がおかしくて…もしかしたら――――――他に男がいるのかもしれない…」
俯く大輔先輩に、あの日敬浩と見た希帆ちゃんが浮かぶ。
とうてい大輔先輩の言う【好きな人】には見えなかったものの、他の男と遊んでいるのは確かだ。
「様子って、どんなですか?」
「じつは希帆の研修先の奴とパーティで話した時に、色んな男と遊んでるって言われちゃって…。俺が疑う要素はなかったんだけど、聞いちゃったからには気になっちゃって…勿論その場では否定したけど。…ってごめんこんなこと、えみちゃんに言うなんて馬鹿だよな、俺…。なんか気が動転してて…」
申し訳なさそうな大輔先輩に、私は軽く微笑んだ。
「嬉しいですよ、先輩が私を頼りにしてくれることなんてそうないですし!」
「えみちゃん…」
誰だって好きな人に相談されたら嬉しいもんなんじゃないだろうか。
例えそれが自分以外の女のことであっても…。
「希帆ちゃんに聞いてみましょうか?勿論それとなくですけど…」
私の言葉に固まる大輔先輩。
聞いてイエスだったらどうしようって?
ここまできて迷う大輔先輩…なんか可愛い。
「大輔先輩が見てきた希帆ちゃんを信じてもいいんじゃないですか?でももしも本当に希帆ちゃんが男遊びしているなら…ちゃんと二人で話した方がいいです。言葉にしなきゃ気持ちなんて伝わらないことのが多いですよ、先輩」
「えみちゃんの言う通りだね。どっちにしても一度希帆とちゃんと話してみる…」
「はい!」
気持ちがお腹に落ちたのか、大輔先輩の顔が穏やかになった。
だけど続く言葉に息が止まりそうになったんだ。
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