岩ちゃんのプロポーズを受けようかなって前向きに考えていた所だったのに、やっぱりうまくいかない…
「えみちゃん!今夜時間ある?」
エレガの今日、偶然なのか大輔先輩と二人きりになった。
昨日のお礼と体調不良の心配、それから…
「どうしても二人で話したい」
こんな切羽詰まった大輔先輩は初めてだった。
昨日の今日で気まずさ半端ない。
私の想い知ってどう思った?
迷惑だって?
それなのに岩ちゃんと一緒にいて最低女だって?
「分かりました」
待ち合わせ場所と時間を言って大輔先輩はエレベーターを降りた。
すれ違うように臣が乗ってくる。
「あ、いた!やっといた!」
私を見て安心したような顔を見せた臣。
その後ろ、バッチリスーツの哲也くんが偶然にも乗り込んだ。
バツの悪そうな顔で軽く会釈をする哲也くんを無視して臣が私に聞いた。
「アイツどうなってんの?」
まずいまずい、哲也くんの前で!
そう思うけど、何も知らない臣は当たり前に「美月、連絡つかねぇんだけど」…哲也くんの目が大きく見開いた。
「昨日から体調不良よ。心配することないって」
「敬浩さん…の様子がちょっとだけ変だったんだけど、関係ねぇよな?」
見透かすような臣の言葉に臣をジッと見つめたまま「当たり前でしょ」…どれだけ嘘を重ねればいいのだろうか。
「その言葉信じるから!」
「待って臣!あんた美月ちゃんのこと好きなの?」
「…は?」
勝手な希望だった。
哲也くんとダメになった時、美月ちゃんを支えてくれる人は必要で。
できれば私は臣にそれをやって欲しいと思っている。
私を見て眉毛をさげる臣は「まぁありっちゃありだけど…」曖昧に答える臣に私は苦笑い。
「具合悪いなら帰り寄るから!」
そう言って出て行った。
「えみさん…」
二人きりになって哲也くんがやっと声を出した。
前を向いたままの私。
「哲也くん、美月のことどうするつもり?奥さんと子供捨てて責任取る気はあるの?」
「………あのえみさん」
「期待させないでよ、美月ちゃんのこと。美月ちゃんは何も言わないかもしれないけど、私は黙ってないから。その気がないのに中途半端なことするのは絶対に許さない。これ以上美月のこと傷つけるなら、全力で阻止するから。二度と会わせないわよ」
答えろ土田!
違う!って。
ちゃんと考えてる!って、それぐらい言い返せよ!
私の願いとは裏腹に「美月と二人で話したい」断固拒否ってわけ?
私の出る幕じゃないってそう言ってるんだって分かる。
だけど何も知らない美月ちゃんがこれ以上苦しむの分かっててほおっておけない。
ポーンと目的の階について哲也くんが小さく会釈をして出て行く。
一人小さな溜息をつくとまた別の階でドアがあいて…
「ゆき乃…」
「えみの馬鹿」
たった一言、その言葉に私はぶわっと涙が溢れたんだ。
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