涙の夜1


【side えみ】



まるで悲鳴みたいなゆき乃の鳴き声に、胸が痛くなる。

美月ちゃんのこともあるけど、誰も何も言えなくても。

こんなんじゃダメだって、私は温かい珈琲を準備した。




「手伝うよえみさん」

「ありがとう、岩ちゃん。…何から何まで本当にありがとう」



ほんの一瞬でも気を抜くと泣いてしまいそうで。

打ち上げパーティは行けなかった。

岩ちゃんが大輔先輩に「えみさん具合悪くて」って言ってくれて。

もしかしたら希帆ちゃんが大輔先輩に本当のことを話したかもしれない。

それならそれでもう仕方ない。



「美月ちゃん馬鹿だねぇーほんと」

「自分でも思います」

「最初から俺にしとけばよかったのに!」

「………」



リビングで敬浩が美月ちゃんの肩を抱いて慰めている。

ことの発端は哲也くんだった。

松先輩に会いに来たんだろう、ポールのパーティに顔を出した哲也くんと偶然会った私達。

哲也くんが私だけに聞こえるように「美月と連絡が取れないんだけど、なんか知ってる?」って。

何となくだけど、美月ちゃんが哲也くんを迎えに空港に行くんじゃないかって。



「哲也くんさ。イタリア奥さん連れてった?」

「え?」



キョトンとした後、苦笑いを見せる。

腹立つ。

これだから不倫してる男の言葉は嘘くさい。

妙に腹が立って私は哲也くんのスーツの胸倉を掴んで「いいから答えろ」低い声で言い放つ。



「一緒に行ったよ、奥さんも娘も」

「美月の耳に入ったら一発殴るわよ!今日は諦めて。私達が美月を連れて帰るから」



私はパーティを抜け出して美月ちゃんに電話をかけた。

案の定電話口で泣いてる美月ちゃんに、馬鹿ねって言いながらも宙ぶらりんな自分と重ねて何も言えなかった。

恋をしたら周りなんて見えなくなってしまうもの。

正しいことも間違っていることも、時に判別がつかなくなってしまうこともある。






「ボロボロになる前に辞めさせなきゃ。嫌われるの覚悟で別れさせなきゃ。私ならできるよね?岩ちゃん…」



ソファーで泣いてる美月ちゃんを見て小さく呟くと岩ちゃんは呆れたように溜息を吐く。



「ほんと、自分よりも人のことばっか考えてるよね、えみさん。そーいうとこ嫌いじゃないけど、もっと我儘でいいのに。いいよ、えみさんのことは、俺が一番に見ててあげるから、好きにやりなよ!」




ポンポンって優しく髪を撫でてくれる岩ちゃん。

でもね、岩ちゃんみたいな人がいつも傍にいてくれてるから私、みんなのこと大事にできているんだって、思うの。

やっぱり私、岩ちゃんがいないと生きていけないね。



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