ブーっと振動するスマホ。
見ると【えみ先輩】って出てる。
あ、えみ先輩!
すぐに通話ボタンをスライドさせるとほんの少し呼吸の荒いえみ先輩の声。
【美月ちゃん!?今どこにいるのっ!?】
「えみ先輩っ…助けてっ…一人で動けないっ…」
【…もしかして空港?行くなって言ったのに、馬鹿ね…】
馬鹿ねって言うえみ先輩の声も何だか切なくて泣いちゃいそうで。
今日はポールスミスの眞木さんとこのパーティのはず。
それなのに、なんで?
まだパーティ中じゃないの?
なんで、なんで、あたしなんかのこと…
【すぐに行くからそこにいなさい】
「えみ先輩、ごめんなさい…」
【うん。分かってるから。大好きなのね、哲也くんのこと。分かってるわよ、美月】
涙が止まらない。
こんなあたしのこと助けてくれるえみ先輩が、どれだけ辛く悲しい傷を抱えているのかなんて、あたしには分かっていなかったんだ。
えみ先輩の着信から1時間もたたないうちにイブニングドレスに上着を羽織ったえみ先輩と岩田があたしの前に姿を見せた。
顔を見ただけで止まっていた涙が溢れてきて、そのままえみ先輩がふわりとあたしを抱きしめてくれる。
温かいその温もりにあたしは嗚咽を堪えることができなくて、そのまま子供みたいに泣きじゃくった。
「そろそろいかねぇと」
岩田の声にバタバタと足音が増えて。
そこにいたのは片岡さんと、田崎さん。
えみ先輩が呼んだのかもしれない。
「美月ちゃん…」
片岡さんがあたしの腕を引っ張ってふわりと抱きしめる。
「さっき何も気づかなくてごめん。ほんと、ごめん…」
あたしは無言で首を横に振るだけで、結局片岡さんの腕の中でも泣いてしまった。
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