えみ先輩と岩田のシャワータイムが終わってリビングに戻ってきた。
「わ、美味しそう!やっぱ臣の料理好きだなぁ」
チーズのせクラッカーをパクつくえみ先輩は色気満載でドキっとする。
「あれ、ゆき乃達は?」
「あ、外です」
リビングの横、大きな窓を開けると庭が広まっていて、そこに備えつけられた縁側の椅子に座って食べている二人。
「今日は暖かいし、外は気持ち良さそう。私達も行こうよ」
「はい!」
えみ先輩と一緒にグラスを持って外に出るとそこはまたリビングとは違う世界が広がっていて。
いつも元気なゆき乃先輩はずーっと空を見上げていた。
その横で、それでも傍にいれて嬉しそうな今市隆二くん。
だけどやっぱりちょっと切ない。
「直人さんに告られた?ゆき乃さん」
まさかのトサカの発言に白目向きそうになる。
興味津々に岩田まで「へぇ〜」なんて言ってて。
隆二だけはすっごい嫌な顔していて。
「げー何で知ってんの?美月?」
チラリと視線が飛んできて思わずえみ先輩の後ろに隠れた。
やべぇ、焼き入れられる!?
そんな心配をよそにゆき乃先輩は「まぁいいけど」なんて笑う。
ガクンってしている隆二の背中が小さく見えるのはあたしだけだろうか?
そんな隆二の隣に座って背中に腕を回すのは男前なえみ先輩。
ポンポンって隆二の頭を優しく撫でるえみ先輩に、隆二がコテンっと頭を乗せる。
「今でも好きだよって直人…。臣ぃ、わたしどうしたらいい?」
トサカに腕を伸ばすゆき乃先輩を掴むトサカ。
そのまま引っ張ってゆき乃先輩を腕の中に納める。
「何?迷ってんの?珍しいね」
「別にそんなんじゃないけど…そうなのかなぁ。何か結構わたしの頭ん中、直人で占められてる気がして…」
「臣、離して。ゆき乃さんこっち来てよ」
焦ってる隆二を見るのは切ない。
何とかしてあげたいと思ってしまう。
片岡さん推しのくせに、隆二であり、山下さんであり、本気だって分かってるから応援したくなっちゃう。
「んじゃチェンジ」
そう言ったトサカはゆき乃先輩を離してあたしの隣に座った。
えみ先輩の膝にコロンって頭を乗せる岩田は自由。
「りゅーじ怒った?」
「ばか、怒れねぇよ。けど、妬ける。どんどん余裕ない俺が出てっちゃって情けないよ。でも譲れないから…。ゆき乃さんのこと、誰にも譲らないから…」
今にも泣きだしそうな隆二をゆき乃先輩はふわりと抱きしめた。
「遠くにいくなよな、えみも…」
センチな気分は伝染するのか、岩田までそんな言葉。
「…ないわよ、岩ちゃんの傍以外に、行く場所なんて…」
「それ本気で言ってる?」
「うん。いつも本気だけど?」
「安心した―――便乗するわけじゃないけど、俺もえみは譲れないし、譲らないから…」
揺るぎない想いがあるなら、今この瞬間それぞれに溢れているんだって…
学生の青春とは少し違うけど、あたしは今この瞬間が青春としか思えない。
変わりゆく時の中で、少しづつ見えてくる本音を、いつの日かあたしも打ち明けられたら…なんて思わずにはいられない。
あの日、トサカと一緒に見た流れ星が、今夜はあたし達みんなの幸せを叶えて欲しいと願うのみだよ。
テツ、早く逢いたい…――――
[ - 65 - ]