「なんで、トサカもいるのよ?」
……玄関で至って普通に靴を脱ぐトサカ。
ゆき乃先輩は今市隆二くんを。
えみ先輩は岩田を呼びつけたこの夜。
まるで最後の晩餐のように思えるのはあたしだけ?
あの日以来、ずっと今市隆二くんを避けていたいたゆき乃先輩も、今日に限ってはその夜這いをすんなりと受け入れたんだ。
明日黒沢さんを落とすから、二人の関係は今夜が最後なんだろうか?
「なんだよ、もっと喜べよな、わざわざお前が寂しがったら可哀想だと思って来てやったんだから!」
相変わらずお洒落な私服を着こなしているトサカはモデルか?ってぐらいのオーラを放っている。
たかが、美容師のくせに。
「別に寂しくなんてないけど…」
あたしが逢いたいのはトサカじゃなくてテツだもん。
「あ、俺達風呂入るけど、お前らどーする?」
酒飲む気満々の岩田は、酔いが回るからって先にお風呂に入ろうとしているようで。
まさかのえみ先輩もご一緒ですかいっ!?
あたしとトサカが見えているはずなのに見えていないのだろうか?
廊下の真ん中でラブシーンを繰り返す岩田とえみ先輩。
ぶっちゃけ先輩二人のキスシーンは慣れた。
いや慣れない。
何度見てもカアーッて身体が熱くなっちゃうから。
「えーんじゃ俺もシャワー先に浴びよっかなぁ!美月も来いよ!」
「え?うん……は、行かないし!」
「心配すんな、欲情はしないから!」
「なっ、なによっ!!ばーか!テッ…」
テツに怒られるよ、なんて、言えないのに。
言いたくなるのはテツが日本にいないから?
言葉を止めたあたしを気にすることなく笑いながら見ているトサカに、キスを止めたえみ先輩が「臣も一緒に入る?」なんて誘惑。
はぁー!?
馬鹿じゃないの!!
トサカなにニヤついてんの、変態!
「んーじゃ、入る。岩ちゃんいい?」
「は?嫌に決まってんだろ?おい美月、なんとかしろよ!行こ、えみさん」
「えー残念。せっかく臣とイチャイチャできると思ったのに!」
サラリと凄いことを言うえみ先輩。
あの岩田をかわせるのなんて、この世界にえみ先輩一人しかいないんじゃないかって、思うんだ。
「俺も残念。んじゃ仕方ねぇ。飯作る?」
あたしの手首を掴んでリビングまでの短い距離を一緒に歩くトサカが何を考えているのかなんてさっぱり分からないんだ。
リビングに入るとゆき乃先輩と今市隆二くんのツーショットが目に入った。
好き好きオーラ全開の隆二に対してゆき乃先輩の気持ちはどうなんだろう?
「トサカ…。片岡さん、告白したんだってゆき乃先輩に…」
繋がってる手をちょっとだけ引っ張ってそう言うと、足を止めてあたしを振り返る。
「そうなの?」
「うん。ゆき乃先輩それでも黒沢さんがいいって言ってて…。だから悔しいけど今は見守るしかないかなって…」
「まぁそうだな。これ以上は直人さんが入れない場所に俺らも入れねぇし。どうなるか分かんねぇけど…黒沢さんであっても直人さんであっても、隆二の面倒は俺が見るか。あ、お前も一緒に見ろよ?」
「…うん。何か切ないね。みんなが幸せになれる方法があったらいいのに…」
思い浮かべるのはテツ。
テツにだって家族がいて、あたし達が愛し合うことで、それが崩れるのは確かだ。
だけど考えたくない。
我儘だって思われても、テツの背後は見たくないよ。
「あれ?センチ?」
「だって…」
「まぁ仕方ねぇんじゃないの?恋なんていいことばっかでもねぇじゃん。その分、幸せになる道もちゃんとみんなにつけられてるよ。この恋がダメなのは運命じゃないんだって。お前の運命だってちゃんといるよ?俺かもしれねぇし…」
ポスってトサカの反対側の手があたしの頭を掠めた。
真面目なこと言うトサカは正直ちょっとだけかっこいい。
だからって好きになんてならないけどね。
「やめてよ、トサカなんて。えみ先輩と浮気しようとしてたくせに」
「へぇ、妬いてんの?」
ニヤって眉毛を上げて笑うこいつが憎たらしい。
でもトサカが傍にいると、自然と嫌なことを忘れているなんて…
「ばっか、違うっつーの!」
「はいはい、とりあえず飯の準備しようぜ。腹減って吐きそうだから」
ムウって唇と尖らせるあたしのそこを指でムンズって摘むと「ブース」って笑ってキッチンに移動した。
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