テツが日本にいない日常は心にポッカリ穴が空いてしまったようで、つまらなかった。
日本にいたらすぐに逢いに行けるし、逢いに来てくれる。
LINEでいくらやり取りをしても、テツからの着信は一度もなかった。
それを仕事だからって不思議に思わなかったあたしは、心底テツを信用していたんだと、後後気付くことになるなんて。
「美月、ちょっとちょっと、この服とこっち、どっちが可愛い?」
明日の黒沢さんとのデートを前にゆき乃先輩が鏡の前で服選びをしている。
いつもラフなゆき乃先輩がふわっとしたスカートを履くのはすごく新鮮で。
「直人くんならこっちじゃない?」
からかってるのか、えみ先輩の片岡さんの名前に思わずあたしも微笑んだ。
ゆき乃先輩は一瞬止まった後、困ったように目を逸らす。
だからなんかあったのか?って、思ったわけで。
思わずえみ先輩と目を見合わせた。
えみ先輩もちょっとだけ吃驚した顔であたしを見返してくれて、その後2人でもう一度ゆき乃先輩に視線を移した。
椅子に座っていたえみ先輩が綺麗に足を組み替えて「直人くんとなんかあった?」サラリと聞いたんだ。
「……なんかっていうか……告られた」
ボソッとそう呟くゆき乃先輩は、えみ先輩が選んだスカートを腰に宛てて苦笑い。
てゆうか、片岡さんいつの間に!!
え、肉食!?
やだ、なんかどうしよう、顔が笑う。
片岡さんってば、一人で頑張れるじゃん!
あたしとトサカの出番なんてなしだな、これは。
「ふふ、やっと言ったんだ、直人くん。それで?ゆき乃の心は?」
あえてなのか、「答え」とは言わずに気持ちを聞き出すえみ先輩はやっぱりやり手で。
ちょっとだけ困った顔するゆき乃先輩に、心は決まってるんじゃないか?って思いたくなるんだ。
「わたしは良平くん。だけど、やっぱり嬉しかった。あの頃それを直人の口から聞きたかった。そしたらわたし、隆二を傷つけないですむのにって…今更遅いけど。だけど良平くんのことはやっぱり諦めたくない。絶対明日落としてみせる!」
「待ってゆき乃先輩!あたしは片岡さんのが好きです!」
ゆき乃先輩には片岡さんしかいない!って、そういうつもりで言ったんだけど、ゆき乃先輩はキョトンとしてから、ブハッと噴き出した。
「やだ、直人が好きなの?美月は。哲也くんじゃなくてぇ?」
「あの、違くて、そうじゃなくて。ゆき乃先輩の相手は片岡さんがいいって、言いたくて…。ごめんなさい、あたしがでしゃばる事じゃないのに、黒沢さんを好きなゆき乃先輩に言うことじゃないのに、言わずにはいられません…」
先輩二人と恋バナをしていると、どうにも泣きそうになる。
なんでかなんて分かんないけど、二人が抱えているものが大き過ぎてなのか、あたしとは程遠い世界だからなのか、分からないけど。
「美月ありがと。良平くんにフラれたら、直人が慰めてくれるって。でもフラれるまではわたし、良平くんとの未来を夢見てるから」
ニコッと微笑むゆき乃先輩は、あたしに「ごめんね」と、その顔で語りかけた。
「それから…」って、ゆき乃先輩はほんの一瞬えみ先輩を見ると数秒見つめあってからそっと視線をあたしに移す。
え?なに?
「いい女は家で待ってるのよ?美月!」
「…え?いい女?家?」
「分かった?」
「はい」
何のこと言ってるのか?と思ったけど、すぐにテツが浮かんだ。
空港まで行かない方がいいってこと?
ゆき乃先輩の優しさなんてこれっぽっちも受け取れずにいたあたしは、翌日の自分の行動をこんなにも後悔するハメになるなんて。
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