【side 美月】
テツー。
テツー。
うーテツに逢いたい。
イタリアって遠い。
はぁ、憂鬱。
「あれ?美月ちゃん元気ないね?失恋でもした?」
……松本店長がニヤニヤしながらあたしを見て笑った。
「失恋なんてしてないですよぉー」
好きな男と逢えないだけっすよー。
「人生終わったみたいな顔しちゃって!可愛い顔が台無しよ!」
「店長ー!あ、そういえば土田さんっていつ帰って来るんですかね?」
「え?なに、美月ちゃんツッチーのこと気になってるの?やめときなってツッチーだけは!そもそも結婚してるし、」
「違いますって!先輩がバッグ頼んでて、毎日まだー?って聞かれるんです…」
嘘じゃない。
ゆき乃先輩もえみ先輩も鞄早く欲しいって言ってるもん。
「ほうほう、なるほどな。日曜日の便で戻るって俺は聞いたよ!買い付けた靴もすぐに持ってくるとは言ってたけど」
「日曜日ですか!じゃあそれで先輩達に伝えておこーっと!」
空港まで迎えに行っちゃおっかなぁ!
あたしが待ってたら吃驚だよね、テツ。
そのままうちに来てくれるから、美味しいご飯作ってあげて…逢えなかった分、思いっきり抱きしめて貰わなきゃ。
ふふふふっ…。
ニンマリ含み笑いするあたしに「まっちゃん」振り返るとそこにいるのは、えみ先輩の眞木さん。
スレンダーな眞木さんは、ポールスーツがすごく良く似合っていて、大人な魅力が溢れている。
あたしを見てニッコリ微笑んでくれたから、慌ててペコッと頭を下げた。
「これ忘れてたんだけど、まっちゃんも来れる?」
「なに?」
「うちの感謝祭の招待状!配るの忘れちゃってて今配布中!」
「お前ー。さっさと言えよな!予定が入ってたらどーすんだ?」
「いや、大丈夫でしょ!奥さん連れてきてよ!」
「たく、仕方ねぇな」
招待状を受け取る店長と眞木さんは同期で仲良し。
専ら店長が歩き回ってポールスミスによく顔を出しているようだから、眞木さんがこちらに来る事はほとんどないけど。
「これだっけ?えみちゃんが参加するの?」
店長があたしにそう聞いて。
「へ?よく知ってますね?」
「んーMOAIの店長に聞いた!」
「え、そうなんですか?」
てゆうか、MOAIの店長何者!?
なんでこっちサイドの情報ツーなわけ!?
「なるほどね〜。俺よく知らないんだけどさその辺のこと。ボーイズトーク内ではまぁあの二人は有名だから!」
「有名?」
「そうそう、色んな意味で」
「それって嫌な意味ですか?」
「んーあんまりいい感じじゃないかも。女からしたら?」
ムスッとした。
思いっきり顔に出したら店長が苦笑いであたしの肩をポンッと叩いた。
どーせ男関係のことだって。
同じ女として憧れるべき所はいっぱいあるのに、結局女って生き物は自分にないものを持っている人を見ると嫉妬するもんなのかと思うとうんざりしちゃう。
でも別にいい。
先輩達は周りにいる人達がちゃんと分かってる強みがある。
その中にあたしの存在が少しでも入ってくれていたらいいな…そう思わずにはいられない。
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