崩れた壁2


【side ゆき乃】



あーむしゃくしゃする。

酒飲んでも今日は全然酔えない。

だけどそんなに強くないせいか、身体はフラフラしてて、歩きづらい。

りゅーじも健ちゃんも無視してずっと別のお店で1人で飲んでたけど、結局何も変わらない。

良平くん、何してんだろ?

せっかく土曜日誘ってくれたから、今更逢いに行ってもウザがられるよね、きっと。

ダメだ、出よ。



「すいませんお会計」

「うちの店初めてですよね?」

「はい。お酒美味しいから気に入っちゃいましたぁ」

「ありがとうございます。今後ともご好意にしてやってください!」

「じゃあ次は仲間連れてきまぁーす」



お会計をして外に出るとムオンとした生暖かい空気が肌を掠めた。

鞄をゆらゆらさせながら歩いているとパシッと腕を掴まれた。

振り返ると知らない男。

誰こいつ?



「ずっと1人で飲んでたよね?きーみ。ね?この後飲み直さない?」



わたしを上から下まで舐めるように見ているこいつは口元が緩くいやらしい。

こいつには抱かれたくないっつーの。



「結構です」

「またー!好きでしょ?キミ、」



頬をイヤらしく触られて悪寒がした。



「まぁ、好きだけど。でもあんたとはお断り」

「は?下手に出てりゃ調子にのってんなよ?」



腕を強く掴まれて無理やり引き寄せられた。

最悪。

動いても力じゃ男に叶わなくて…



「離してっ!変態っ!」

「黙れこのブスッ!」

「は?ブス?それわたしに言ってんの?ありえない。クソ男!」



つい売り言葉に買い言葉で言ってしまったら男が逆上して壁に追い込まれた。

無理やり胸元に顔を埋められて足を開かせられる。



「やっ!やめてっ」



口を押さえつけられて服の中に手を入れられる。

気持ち悪い。

イヤッ!!




グイッていきなり視界が開けて。

わたしの前に立ちはだかる背中はよく見たことのある背中で。




「男のクズだな、貴様」



ドカッて一発殴りつけると、わたしの手を引いて歩き出す。

そのままタクシーをひろってそこにわたしを乗せた。



「片岡?」

「馬鹿かてめぇ。ふざけやがって」

「片岡も一緒に乗って、お願い…」



わたしだけを乗せようとしたからそのまま腕を掴んで中に引き入れた。

わたしを見て困ったように眉毛を下げる片岡は、はぁーって溜息をついて静かに隣に座った。

それから片岡の住むマンションを告げて。



「連れていくの?」

「うるせぇ」

「でもよかった。今日は帰りたくなかったから…」



コテっと片岡の肩に頭をもたげると、「気にしてんじゃねぇか…」……そう言われて小さく笑う。

気にしてるつもりなんてなかったけど。

昔よりもこたえるのは、わたしが年とったから?

そーいえばこいつ、なんだかんだでいつもちゃんと助けてくれるかも。

目を閉じるとまだ若かったわたし達が浮かんだ。

もしもあの頃片岡に彼女がいなかったら、わたし達どうなっていたんだろうね?

意地を張ることも疲れちゃったよ。



「えみが心配してんぞ?とりあえず俺ん家にいるからって、送っとく…。おい、寝るな?」



忘れていた片岡の温もりは、あの頃と何も変わっていなくて。

何だか安心して泣けてきた。

でも恥ずかしいからそっと目を閉じたら睡魔がおそってきて……



翌朝目覚めたわたしは、片岡の部屋のベッドで寝ていたなんて。



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