初めて感情的になった今市隆二くんのせいで、ゆき乃先輩への女の嫉妬は目に見えて増えていくのがさすがのあたしも分かった。
イケメンの先輩達のファンは多い。
単なるお客であろうとも店員目当てで来店する人も多いのに。
「げ、最悪。淫乱と同じエレベーターとか、菌がうつったらどーしよう!治療費払わせちゃう!?」
社員用のエレベーターを開けた瞬間、目の前にゆき乃先輩がいて、そこに乗り合わせたどこぞのブスな女達がそんな有り得ない発言をしている。
許せない!
「ちょっと、あんたたっ」
「美月!いいから。黙ってなさい!」
遮ったのはゆき乃先輩本人だった。
別にどうってことないって顔であたしを見ているけど、絶対悔しいに決まってる。
今市隆二のせいだ!全く!
あたしが言い返そうとしたことで逆上したのか、さらに有り得ない文句を言いふらしてくるブス達。
だけど……
「あ、良平くん…」
次の階で、まさかの本命黒沢さんが乗り合わせたんだ。
「ゆき乃さん!と、原田さん。こんにちは!」
清潔感あふれる黒髪を綺麗にあげていて、浅黒い肌に優しい笑顔でニッコリ微笑んだ。
「今日は?片岡のとこ?」
「そうそう、sevenに用事あって。直人くん最近頑張ってるから俺も負けてらんないって!」
「…あいつ頑張ってんだ」
そう呟いたゆき乃先輩は、ほんのり頬を緩ませた。
そういえばこの前食堂で今市隆二くんがポカした時にゆき乃先輩を連れていった片岡さん。
あの後何事もなく戻ってきたゆき乃先輩だけど、2人に何かあったのか?あたし達は誰も何も知らない。
あー知りたい!
片岡さん、頑張ったのかな?
「やめた方がいいですよ、この女誰とでも寝る女なので!」
それは明らかに黒沢さん宛の言葉だった。
さすがのゆき乃先輩もようやくそいつらを睨みつけた。
黒沢さんが本命だなんてこのブス達は当たり前に知らないけど、だからって許される発言じゃない。
「え?」
キョトンとした顔で黒沢さんが、ブス達を見る。
「え、なに?何の話?」
「この女、好きじゃない男と平気で寝るって言ってるの。あなたも餌にされないようにね?」
フンって鼻で笑ってそう言って降りていった。
「なんかあったの?」
心配そうに黒沢さんがゆき乃先輩を見ていて。
「うんちょっと。モテない女の僻み?ねぇ良平くん…わたし良平くんがわたしを見てくれるなら、良平くんだけを好きでいるよ…」
「……え?」
「ごめん、違う。もう良平くんだけを好きでいたい」
余裕の見えないゆき乃先輩は初めてだった。
一瞬片岡さんの想いを忘れそうになるくらい、ゆき乃先輩も真剣に黒沢さんを愛している、そんな気がしたなんて。
……テツ、逢いたい。
あたし一人じゃ抱えきれないよ。
早く帰ってきて。
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