ゆき乃先輩と片岡さんの関係を知った所でまたMOAIのドアが開いた。
「……うそ、誰よ」
そこにいたのはゆき乃先輩の本命バイヤー黒沢さんと、全く知らない女。
仲良さげに入ってきた。
「あ、直人くん!」
「どーも」
片岡さんに気づいて声をかけられる。
あたしを見てペコッと頭を下げる黒沢さんに、ペコッと下げ返した。
隣の女誰よ?
ゆき乃先輩のが100倍可愛いんだからっ!
戦闘態勢なあたしをトサカの手が遮った。
「顔に出しすぎ!睨むなよ、美月。落ち着けよ」
グイって再びトサカの腕の中。
「離せ」
「落ち着いたらな。つーか今直人さんの協力するって言ったばっかじゃん。アイツに女がいる方が都合よくない?」
トサカに言われて納得。
だけどゆき乃先輩が無駄に傷つく姿は見たくない。
現時点で片岡さんに軍配は確実にあがらない。
「トサカも協力して?」
下から見つめあげるとあたしの腰に腕を回して頭に顎を乗せる。
「んーどーしよっかな…」
「勿体ぶるな!協力してよ!」
「まぁ、いーけど。隆二ちょっと可哀想…」
「大丈夫!今市隆二くんはモテルから!」
「はは、それはまぁそうだけど!」
「ゆき乃先輩とえみ先輩には絶対何が何でも幸せなってほしい!」
「随分懐いてんのな、美月」
トサカがクスリと笑ってようやくあたしを離した。
もうとっくに落ち着いてるもんっ。
「だって、先輩はあたしのこと認めてくれたから…」
「ふうん。まぁ美月がそう言うなら、俺も協力しますよ、直人さん!」
今更ながらトサカが片岡さんにそんな声をかけると、ほんの少し眉毛を下げた片岡さんが「ありがとう」って笑った。
「か、かっこいいです!片岡さんいつも笑っててくださいよ!ゆき乃先輩の前でも…」
「……まぁ、努力する」
「はいっ!」
片岡さんとトサカとハイタッチしたあたしは、その日遅くまでMOAIで飲んだんだ。
だから翌朝酷い頭痛で目が覚めた時に、すっかり忘れてしまっていたなんて。
トサカと何があったのか、なんて……。
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