【side 美月】
まずいよ、まずいって!!
ゆき乃先輩、山下さんとチューしてる場合じゃないですよっ!
ギリギリ気づかなかったか、トサカがあたしに気づいてこっちに寄ってくる。
後ろで相変わらず不機嫌そうな片岡さんも一緒に。
「お疲れ!」
「あーお疲れ!こここここれからご飯っ?」
「んー。そこで直人さんに会って、奢って貰おうと思って!」
ニカッてえくぼを見せて笑うトサカは、あたしが手にしていたカクテルを奪い取ってゴクリと一気に飲み干した。
「お前こんなジュースみたいなの飲んでるの?」
「今日はいいの、これで!あの、片岡さんこんばんは!」
煙草に火をつけた片岡さんにペコッと頭を下げる。
にっこり微笑んで「美月ちゃん、お疲れ!」よかった、笑ってる。
見てなかったよね?さっきの、キス。
トサカも普通だし。
いつもなら片岡さんを見ただけで文句の一つでもいいそうなゆき乃先輩は山下さんの影に隠れているのか大人しい。
無言で枝豆を食べている。
でも次の瞬間その手を止めて……
「健ちゃん帰りたい。送って…」
綺麗なソプラノボイスが冷たく言い放ったんだ。
「え、ゆき乃先輩?」
「臣、美月のことちゃんとハウスの中まで送ってあげて?」
「はいよー!」
そう言うトサカはあたしの肩に腕をかけて引き寄せられる。
「へぇ、隆二以外とも寝るんだ?」
片岡さんの冷たい声にゆき乃先輩がグラスをテーブルにダンっと置いた。
思いっきり睨んでいる。
オロオロするあたしを更に引き寄せるトサカはまるで余裕の表情で。
耳元で「黙ってろって、大丈夫だから」そのままフーッて息をかけられて、ゾクッと肩を揺らす。
「関係ないでしょ片岡には」
「……まぁ、関係ねぇけど。何回忠告してもきかねぇしお前」
呆れた顔に見えるけど、あたしには悲しそうに見えてならない。
やっぱりどう見ても片岡さんはゆき乃先輩を意識している気がする。
それが山下さんでも隆二でも勝てない強い想いに思えるなんて。
「美月、臣に送って貰いなさいよ?近いからって1人で歩いちゃ絶対ダメだからね?」
「あの、ゆき乃先輩…本当に帰っちゃうんですか?」
「なに?寂しいの?」
ジィっと見つめるゆき乃先輩にやっぱりドキドキするあたし。
「臣で我慢して?」
クスッて微笑むとゆき乃先輩は山下さんと一緒にMOAIからいなくなった。
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