二人目の彼3


【side ゆき乃】



「あ。美月、えみ今日帰らないかも……」

「えっ、そうなんですか?」

「うーん、たぶんね」



LINEに入ったえみからのメッセージを見てそう伝えた。

たかぼーとさしのみの時はだいたいえみは朝帰ってくることが多いから。

昔、わたしにとっての片岡がそうであったように、えみにとってのたかぼーも大事な話し相手なんだって。

専らわたし達の関係は収拾つかないけど。



相変わらずのMOAIで軽く飲んでいたわたし。

ダーリンがイタリアにいっちゃった美月はそれでも空元気を装っていて。

ただでさえ不倫ってだけで心苦しいものを抱えているんだろうなって。

わたし達が美月を受け入れると思っていなかったのか、哲也くんを招いたことに号泣していて。

このまま哲也くんとの未来があるとは思ってないけど、夢を見るのは自由だ。

わたしだって、良平くんとの未来を思い描いてしまう。

毎夜りゅーじに激しく抱かれているっていうのに。

ここ最近妙に虚しさを感じるわたしは、そろそろ色んなことを精算していかなければならない?と思い始めているのかもしれない。




「あ、ゆき乃ちゃん!!」



聞こえた声に振り返ると仕事終わりの健ちゃんが笑顔で近づいてきた。

相変わらず爽やかな笑顔でわたしを熱く見つめる健ちゃんにドキドキしないこともない。

好きは、好き。

だけど一歩踏み出せないのは健ちゃんが本気なのが分かるから。

軽い付き合いでいいなら健ちゃんとだって寝るけど、それじゃ健ちゃんが傷つくだけだよね。



「お疲れさま。今日も売れた?」

「まぁまぁや。珍しいなぁ、隆二おらんの…」



辺りをキョロキョロ見回す健ちゃんは、さりげなくわたしの腰に腕を回す。



「残業みたい。お店のレイアウト変えるって」

「ほーか。ほな今夜は一人なん?」

「んー。健ちゃん来る?」



冗談ぽく、でも本気じゃないこともなく。

どっちつかずなわたしの気持ち。



「いくいくいく!めっちゃいく!」

「どーする、美月?」



黙ってわたし達を見守っていた美月に声をかけると目を大きく見開いた。



「わ、わたくしには決めかねますが……」

「ブッ!」

「いいんですか?今市隆二くん待たなくて?」



あら。

美月ってばりゅーじ押し?

同期のよしみ?



「美月ちゃんその名前勘弁してや。たまには俺だけを見てくれやぁ、ゆき乃ちゃん」



片手でわたしを抱く健ちゃんは本気でわたしを抱きたいのだろうか?



「嫌でしょ?本気じゃない男と寝ちゃう女なんて?健ちゃんみたいなピュアな人にはわたしは似合わなっ……」



ジュルリと口の中にビールが流れてきた。。

健ちゃんの腕がわたしを抱いていて、唇に触れる温もりも健ちゃんのもの。

初めて触れるその唇に、思わず口移しで入ってきたビールをゴクリと飲み込んだ。

そのまま舌が入り込んできて、また腰を抱き寄せられる。

丁寧に舌をわたしの舌に絡めてくる健ちゃんに、そっと目を閉じた。

これがわたしの答え。

キスをするのは好きで。

それが特別なことになっているのが勿体ない気がする。

挨拶でキスぐらいさせてくれてもいいのにって。



「否定すんなや、ゆき乃ちゃんが。俺そんなピュアちゃうよ」



わたしをギュッと抱きしめる健ちゃんからは柔軟剤の匂いがする。




「あっ、わっ、ゆき乃先輩っ!!」



急に美月に呼ばれて健ちゃんから引き離される。

カランと空いたMOAIの入口、そこにいたの同期の片岡と、美月の同期、臣だった。



[ - 51 - ]
prev / next
[▲TOP