「え?」
敬浩が私の視線を追って飲み屋の入口を見る。
「え、あれって…」
「シッ!黙って」
敬浩の口を手で押さえる私に黙りこんだ。
メイクも服装も全く違うから別人みたいに見えなくもないけど、間違いないと思う。
「なんでよ…」
両サイドに知らない男をはべらせている希帆ちゃん。
「聞こえない、何て言ってる?」
敬浩の肩に顎を乗せて抱きつくみたいに入口を見るけど、声まで聞こえなくて。
でも次の瞬間、店員が3人を引き連れてこっちに向かって歩いてきた。
やばい、見つかる!?
「敬浩ごめんっ」
とくかくこの場を回避する為に、私は敬浩の首に腕を回してそのまま素早く唇を重ねた。
慌てることもなく私を抱きしめ返す敬浩は、まるでこのキスを楽しむようにわざわざご丁寧に舌まで入れ込んできて。
岩ちゃん以外の人とのキスは私にとって思いの外新鮮なのか、そこに希帆ちゃんがいたことを忘れそうになるくらいキスに集中していたんだ。
気付くと私を抱く敬浩の腕がやんわりと太股を撫でていて。
「こらっ!もうおしまいっ!」
パッと顔を離すと見たことのない真剣な表情で熱く見つめる敬浩がいたなんて。
ギュッと私を抱きしめる敬浩。
「……なによ、離してよ」
「いーじゃん、たまには」
……たまには!?
なによその返し。
敬浩から身体を離してジロッと睨みつける私を、全く余裕の表情で見返す敬浩は、あろうことかもう一度私にその唇を寄せた。
「マジで岩ちゃん卒業したら?」
触れる寸前、そんなことを言われて。
男女の付き合いには、多少なりとも身体の相性というものが存在する。
岩ちゃんとピッタリだと思っていた私に、敬浩のキスは刺激的で、頭では拒みながらも実際は拒否できない自分がいるなんて。
こんな私、大輔先輩には不釣り合いよね。
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