「美月ちゃん、ベッドの配置これでええかな?」
不意に山下さんに呼ばれてあたしの部屋に行くと、さっき運んできたばっかりだっていうのに、奇麗にレイアウトされていて…
「わーすごい!山下さんセンス抜群ですね!ゆき乃先輩の言う通りだ」
「え、なんてなんて!?」
耳に手を宛ててあたしの言葉に嬉しそうな顔をする山下さん。
さっきトサカが言ってたことを思い出してニヤっとしてしまう。
「山下さんセンスいいからレイアウト頼めば?ってゆき乃先輩に教えていただきました」
「ほんま?それほんま?うわ、めっちゃ嬉しいやんそれ!ゆき乃ちゃんやっと俺ん魅力に気づいたんかなぁ…」
鼻の下まで伸ばしてる山下さんに、何だかあたしまで嬉しくなる。
トサカの話だと完全なる片想いっぽいけど、嫌いじゃないってことだよね。
そもそもえみ先輩もゆき乃先輩も、彼氏ぐらいいそうだけど…
あんな美人ほおっておくとしたら世の中間違ってる。
「好きなんですか?ゆき乃先輩のこと…」
単刀直入に聞いても大丈夫そうな空気を持っている山下さん。
あたしの言葉に、大きな目を細めて「あらやだぁ、分かっちゃう?」なんてオネエ言葉。
でもこれはきっと山下さんなりの照れ隠しなんじゃないかって思う。
「バレバレですね」
「あ、今高嶺の花やって思ったやろ?ええねん間違いちゃうし。前の店長とそりが合わんで。こんなんでもいっぱいいっぱいやった時期もあっててん。そん時にインフォのゆき乃ちゃんがどんな人にでも笑顔で接してる姿目にして…――一目惚れ言うたら大袈裟やけど、なんや目が離せへんかった。自分だけが頑張ってるんちゃうやんなって。そん時からずっと俺ん中でゆき乃ちゃんが女神やねん。いつか健ちゃん愛してるって言わせてみせんで!」
男の人にこれだけ愛されてるのってどんな感じなんだろう?
今まで彼氏がいなかったわけじゃないけど、こうして第三者に愛を堂々と言えるのって…―――いいな。
頭の中に浮かんだあの人をあたしはすぐに消した。
いかんいかん、今は引っ越し中。
落ち着いたらにしなきゃ…
「美月ちゃんは?おらへんの?彼氏とか、好きな人とか?」
「え?」
「臣ちゃんと同期やっけ?ちゅうことは、隆二も同期?」
「え、あ、はい…あたし、年上好きなんで…」
つい言ってしまったものの、大丈夫だよね?
気づかれるなんてこと、ないよね?
山下さんはキョトンとした顔の後、「え、俺やん?」自分を指差して笑顔でそう言った。
え、この人面倒くさい!
そう思ったけど、言えるわけもなく。
「違います。イケメン好きなんで…」
「えええ、やっぱ俺やん!」
ニカって白い歯を見せて会心の笑み…。
「いやもう、ごめんなさい、本当に違うんで」
「プッ、すごい言われようだな、健二郎!」
聞きなれない声に顔を上げると、これまたイケメンがそこに立っていた。
あたしを見てニッコリ微笑む彼は頬にえくぼができていて。
「初めまして、田崎です。噂はえみとゆき乃から聞いてるよ、ルームシェアを申し込んだ物好きな美月ちゃん!美容室T&Tの店長です。よろしくね」
スッと細くて奇麗な指をあたしに差し出した。
「…お願いします」
ペコっと頭を下げて田崎さんの手を掴んだ瞬間、フワっと抱き寄せられる。
ギャアアアアアアアア―――!!!!
なにすんのっ!?
イケメンに弱いんだからやめて!
「敬浩くん、それ禁止でしょ。えみに怒られるよ?」
そう言ってあたしを剥がしてくれたのは八重歯のあるこれまたイケメン。
「ども。片岡です。SEVENの店長で、この敬浩とゆき乃、えみとは同期なんだ。美月ちゃん宜しくね」
スッと手を握られて「あ、はい」ペコっと頭を下げた。
ちょっと何か、イケメンしかいないよ、ここ!
何かあたし、すごいところに来ちゃった?
「あの田崎さん。物好きって?」
「あー知らない?あの二人の噂…」
キョトンとするあたしに向って「いいの?」今度は怪訝な顔で片岡さんが田崎さんを止めようとしてるようで。
「あの、教えてくだい…」
「教える教える、何でも教えちゃう!あの二人ってほらインフォエレガじゃん。だからあのポジションにつく為に、上に枕営業かけて仕事とってるって噂が流れてて。だからみんなそれ信じてあの二人にはデカイバックがついてるから関わらないようにしてるってね。知らなかったでしょ、美月ちゃん。だからここに申し込みしたんでしょ?」
「…そうですけど、でも二人とも美人だし憧れです!そんな噂どうだっていいですあたしには!」
熱く言い張った瞬間、ゆき乃先輩とえみ先輩がラフな格好で戻ってきた。
どうやら二人ともシャワー後のようで。
ほんのり化粧をしているけど、ほぼスッピンでやっぱめちゃくちゃ奇麗!
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